漁業での最も多い光の使い道は集魚灯(副漁具)です。集魚灯漁業は魚類が光刺激に対して誘引されたり,定位したりする行動を利用したもので,わが国では古くから多様な形態で利用され,その対象魚種は30種類以上にも及びます。その光源は古くは松明から始まり,その後,石油灯,白熱灯,ハロゲン灯,メタルハライド灯と発光技術の進歩によって形を変えてきました。そして,近年では新たな光源としてLight
Emitting Diode(以下LED)が注目を浴びています。LED灯は他の光源と比べて長寿命であるため維持・管理に関わる労力や費用を削減できること,占有容積が小さく小型化が可能であることなどの特徴があります。しかし,その特性はこれまで漁業で用いられていた光源とは大きく異なり,特定波長の光を放射できます。例えば,白熱灯では可視光の長波長成分から赤外線の発光割合が多いのに対して,LED光では青色460~500
nm,緑色500~570
nm,赤色610~780
nmと波長域が狭い特定の光を作ることができ,エネルギー効率が良いのが特徴です。多くの研究者はLED灯のこのような特性と魚類の色に対する嗜好性や光に対する視感度を利用し,消費エネルギーを抑えて魚を効果的に誘導したり,忌避させたり,といった制御ができるのではないかと考えています。
これまで行われているLED光の利用に関する研究には以下のようなものがあります。
1.イカ釣り漁業やサンマ棒受け網漁業での利用
イカ釣り漁業に関しては,青色の視感度が高いイカ類に対して,集魚灯の一部をハロゲン灯から青色LED灯にすることにより燃料費を削減した上で,漁獲量を増加させたという実用試験の結果が報告されています(LED集魚灯による中型イカ釣り漁船の省エネルギー化実証試験. 有限会社旺貴水産, 石川,2010)。また,イカ釣り同様に光を積極的に使うサンマ棒受け網では,LED灯への転換が進められています。
2.混獲防止への利用
トロール漁具にLED灯と特殊な脱出口を装備したコッドエンドを用いて,光によって脱出口に魚類を導き,マスノスケ(Oncorhynchus tshawytscha)やメバル属(Sebastes)の魚の混獲を減少させた例が報告されています(Larsen et al., Fisheries Research, 2018; Hannah et al., Fisheries Research, 2015; Lomeli et al., Fisheries Research, 2012)。その他,多くの利用研究が行われています。
漁業以外でも,赤色光にマスノスケやマダイ(Pagrus major)が忌避行動を示すことを利用して,取水施設等における魚類迷入防止技術としても検討されています(Cooke et al., Conservation Physiology, 2018)。