【研究内容】

本研究では,自然環境下に生息する魚を対象として,光特性(色,光強度)の異なるLED光における集魚効果の変化を調べるとともに,環境要因を排除できる屋内環境において同様な種を対象として実験を行い,光特性の変化が行動に与える影響を調べ,魚を集める・忌避させる,さらに,魚の活性を増減させる光の条件を明らかにすることを目的としています。

【研究方法】

タワー海底階の観測窓からLED光(白,赤,緑,青,シアン)を海中に向けて照射するとともに,カメラを設置して,窓面で観測される魚類の観測を行いました。記録されたビデオ画像から一定時間ごとの静止画を抽出して二値化処理を行った後に個体数を計測しました。また,コンピューターによる画像解析により行動追跡を行い,移動距離,滞留時間を計測しました。

【結 果】

以下に,一例として青色のLED光照射時の観測窓の写真と計測のため二値化された画像を示しました。この実験での優占種はエゾメバルでした。



図1. 観測窓の様子(青色)と二値化処理した画像.

図2に,観測の一例を示しました。この結果から,観測個体数は,青色>シアン>白>緑>赤の順に多いことがわかります。この傾向は繰り返し観測しても同様でした。なお,日出直後に観測個体数が急減しているのは,LED光の照度が海中の照度よりも相対的に低くなったためです。

図2.異なる光色のLED光照射時の時刻ごとの観測個体数.

次に,画像解析時の画像の一例を示します。画像内の青線のグリッドは計測範囲であり,これに合わせて画像のゆがみ補正を行い,軌跡の座標を求めます。オレンジのラインは実際に追跡した軌跡を示しています。波による周期的な動きの成分を除外して,この軌跡をもとに求めた移動距離と滞留時間をまとめた結果が図4になります。

  

  

図3. 動画解析時の画像例. 尾鰭を対象ポイントとして窓面に出現してから消失するまで追尾.


図4. 動画解析から求めた観測個体の移動距離と滞留時間に関するボックスプロット

この図から,移動距離も滞留時間も青色において顕著に値が大きいことがわかります。また,意外にも白色の結果は緑や赤よりも低い値を示しました。このことから,青色では単に集魚個体数が増えているだけでなく,その活性も高くなっているとともに,光への執着も高いということが考えられます。

以上の結果から,光色は単に集魚効果に影響するだけでなく,行動の状態にも影響を与えることがわかります。このような性質は当然魚種によっても異なると考えられます。したがって,特定の漁業を考えた時,漁獲したい種,逃がしたい種に関して,光に対するこうした性質を調べることで,光を利用した混獲防止の新しいアイデアが生まれる可能性があります。

なお,以上の内容は次の研究報告の内容の一部を抜粋・改変したものです。

M. Sakamoto, Y. Fujimori, N. Matsubara, H. Yasuma, S. Shimizu, S. Katakura, Fish attracting effects of LED light of different colours, Contributions on the Theory of Fishing Gears and Related Marine Systems, Vo.10, 235-240, 2017.

田内葉子・藤森康澄・清水晋・片倉靖次,屋外・屋内実験におけるLED光照射時のエゾメバル(Sebastes taczanowskii)の行動,令和3年度日本水産学会秋季大会(福井県立大学),2019. 


補足:解析の効率化

このような動画解析には多大な労力と時間が必要となります。そこで,現在は自動個体数計測に関しても研究を進めています。以下はその一例です。

個体数の自動計測

 左上:オリジナル画像,右上:グレースケールへの変換,下:変換後,動画の背景差分をとり輪郭抽出







最終更新日時: 2022年 02月 16日(水曜日) 17:35