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    • 海洋深層水中の硝酸塩(N)とリン酸塩(P)の濃度比(N/P)が16に近いことを、Redfieldさんが見出しました。そこからRedfieldさんは、海洋表層で植物プランクトンが取り込むN/P比が16に近いことを推測したのです。表層で植物プランクトンに取り込まれたNやPが、有機物粒子として深層へ運ばれてから分解して無機物(硝酸塩やリン酸塩)として再生するからです。実際、植物プランクトンを培養して調べた結果や、表層海水中でのNやPの消費量の比率を調べてみると、どうやら、Redfieldさんの予測は平均的に正しいことがわかってきました。(実際には、N/P=16ではなく、14~15程度です)ただし、植物プランクトンの栄養状態や環境要因によって、その比率は大きく変わります。そうであれば、全海洋、ある特定の海域、ある水深、、、いろいろな条件で絞ってN/P比を調べてみれば面白いことが見えてきそうです。酸素消費を伴って有機物が分解、NやPが無機物として再生するので、酸素消費量(AOU)とN/P比の関係を調べてもよいでしょう。また、酸素が欠乏した海水や、局所的に無酸素になっている有機物粒子の内部などでは、硝酸還元が起こります。硝酸還元が起こると、硝酸イオンは窒素分子になって失われてしまいます。硝酸還元ではリン酸イオンは失われないので、海水中のN/P比がずれる要因になります。そのような窒素損失量を、【硝酸濃度】―16×【リン酸濃度】 の式で表すこともあります。これらも、ODVで図示できるとよいです。

       以上は、海洋化学的な観点からの計算例ですが、水の動きを調べる海洋物理的な観点でも計算すべきことがあります(そのうち、本サイトでも紹介する予定)。

    • ODVで読み込まれている変数(variables)を引数とした数式をつくり、その計算結果(新たな変数)をODVで図にします。

      ODV画面の Sample窓 にて右クリック 【Derived Variables】➡【Expression】➡【Add】




      Edit Expression(計算式を編集)の画面にて、

      【Label】:計算式(追加した変数)の名前を入力

      【Choices】:計算式に使う変数(引数)を選んで、【 << 】で追加する。

      Defined窓に表示されたものが引数です。#1 や #2 が、計算式の中で用いる引数の名前です。

      Expression Postfix Notation(逆ポーランド法で記す計算式)の窓に数式を入力します。入力の仕方は、逆ポーランド法に従います。

      (下の例では、#1 / #2 という意味です。つまり、Nitrate / Phosphate の計算結果を、N/Pという変数を新たに追加することになります)



    • 変数 N/P を追加したので、散布図のX軸を N/P にします。図を右クリック、【X variable】で変数 N/P を選ぶか、【Properties】➡【Data】でX軸を 変数 N/P に変更します。その結果が以下のようになります。




      N/P比が、深層水で14~15ですね。海洋植物プランクトンが、基礎生産時に海水中からNとPを14~15の比率で取り込んだ結果と考えられます。その有機物が深層へ運ばれたのち、深層水中で有機物分解、NがNitrate、PがPhosphateとして無機化した結果と解釈できます。

      海洋学では、表層の生物生産の特徴をあらわす指標として、N/P比が調べられることがよくあります。

    • 以下のように、追加変数名(Label):N star、引数 #1 = Phosphate、#2 = Nitrate として、

      数式 Expression: 16 #1 * #2 -  を入力してください。

      数式の意味は、16を#1に*(かける) その結果(=16 #1 *)から#2を-(引く)(つまり、( 16*#1 ) - #2 )。


      X軸を N star にして鉛直分布を描きました。


      海洋化学分野では、N star(= N*)を、硝酸還元によって硝酸塩が消失した効果の指標として使うことがあります。

      海水中のN/P比は、おおよそ16です。硝酸還元でリン酸塩は失われません。

      N star = 16×Phosphate - Nitrate の値が大きくマイナスに振れていると、その水は硝酸還元の影響を受けて硝酸が失われたことが推測されます。上の図のように、西部太平洋では、水深500 mくらいでN star値がマイナスに振れていますね。なぜでしょうか。硝酸還元とは関係ない可能性も高いです。この選択した場所が、黒潮族流域であることが何か関係しているのか? それとも、東北沖で沈み込んだ北太平洋中層水が時間経過したからなのか? 上のグラフは、年平均のWOAデータです。季節毎のデータだと、N star値に違いが生じるのか? 考察の余地がありそうです。

    • ODV expressionについての詳細は、ODV公式マニュアルの94ページあたり、95ページに計算式の入力例があります。

      逆ポーランド法については、Wikipedia「逆ポーランド記法」にあります。