單元大綱

  •  「サイエンスをする」というと、立派な施設で実験をしたり、スーパーコンピューターで複雑な計算をしたりすることを想像しませんか? そのようなサイエンスもありますが、皆さんのお家でパソコンが1台あれば、本格的なサイエンスができることもあるのです。例えば、海洋学。世界中の海洋学者たちが、日々、海洋観測をして科学データを蓄積しています。個々の海洋学者は、自分の研究目的に沿ったデータ解析をして、そのデータと解析内容を論文にして公表しています。一旦公表されたデータは、誰でも再利用することができます。国の機関が税金を使って得た科学データも、一定期間を経たら、公表されます。現在、膨大な量の海洋データが公表されていますが、まだまだ解析の余地が残されているものばかりです。そのようなオープンデータを使えば、誰でも、本格的なサイエンスができるのです。誰でも、サイエンティストになれるのです。

     実際、公開されている膨大な量の海洋データを解析する研究者は沢山います。「膨大なデータを扱う」というと、ビッグデータをAIに任せて解析とかを想像してしまいますよね。私、個人的には、膨大なデータから興味深い点を選び出して、手作業でグラフを作って、数値と睨めっこしつつ、見えない海の現象を想像して、その現象を論理的に説明できないか、頭をひねるのが好きです。本サイトでは、そのような、泥臭いような、ちょっと昔ながらのサイエンスに導くことを目指しています。

     一般公開されている海洋データを、私が図にして、珍しい特徴を見出して、アレコレ考察した例をご覧ください(→ここをクリック)。たぶん、世界中のどの教科書にも載っていないことなので、サイエンスの入り口と言える内容だと思います。そのデータの解析を進めていたときは、ワクワクして楽しかったです。自らサイエンスを始めることが、どんなに楽しいのか、皆さんにも経験してもらいたいです。

     本サイトは、「サイエンスを始めてみる」をお手伝いする目的で、北海道大学大学院水産科学研究院(担当:大木淳之、芳村毅)が開設しました(2023.10~)。

    • 利用対象: 高校生以上で、このような説明文章を読み進めることができて、パソコン上で手を動かせる人を対象とします。中学校の理科程度の知識があることを前提として説明を進めます。しかし、高校や大学で学ぶレベルのことを、すっ飛ばして難しいことを言ってしまうこともあるかもしれません。そんなときは、ネットで調べるか、私(大木淳之)に連絡をくれれば、なるべく返答します。

      利用目的: サイエンスに触れてみたい、海や自然に興味がある、数学や物理が好きかも、高校で習った地学(海洋)をもっと深く知りたい、高校の探究の時間(課題研究)などの目的や動機があるとよいと思います。

      質問受付: 私の連絡先は、北海道大学水産学部のHPより調べてください。匿名のメールには返信しません。氏名や所属(あれば)・職業などを名乗って、利用目的も簡単に説明してください。なるべく、数日内に返信します。メールに件名が無かったり、迷惑メールのフィルターにかかると、私の目に触れません。そんな可能性もあるので、返信がなければ、もう一度送ってください。

    • Google スプレッドシートで海洋データのグラフを作る:①

       中学校や高等学校では、便利なGoogle Chromeを使っているところが多いと思います。専用ソフトを使って本格的なデータ解析をやる前に、Googleスプレッドシートで図を作る基本を学んでおくことも大事です。

      Googleスプレッドシートで海洋鉛直分布図を作る(⇦  クリック!)

    • Googleスプレッドシートで海洋データのグラフを作る:②

       トレーニング第二弾です。CSV形式の海洋データファイルをダウンロードして、独自にグラフ化しましょう。そのグラフで、何を読み取りたいのかを考えて、軸の設定をするのが大事です。論文に掲載できるような、美しいグラフを作りましょう。

      Googleスプレッドシートで海洋データのグラフ化に慣れる(⇦  クリック!)

       スプレッドシートで地道な作業を経験したうえで、もっと便利な、でもちょっと難しい、ソフトウエア(Ocean Data View)の利用を検討するとよいでしょう。

       自分でグラフ化できるようになったら、下の「海洋データ解析のヒント」をクリックして、解析のヒントを得て、解析に挑戦しましょう。

    •  さらに詳しい解析例は、この下のトピック「海洋学を題材とした課題研究の進め方(レポート作成まで導きます」をご覧ください。


  •  課題研究では、初っ端のテーマ―探しが一番苦労すると思います。レポートを書くにしても、初めてだと、何から記せばよいか分からないでしょう。そんなときは、過去の研究やレポートを真似すればよいです。そんな人のために、「海洋のオープンデータでサイエンスを始めよう」の課題研究レポートのひな型(例)を作りました。これを原形として、一般の高校生が課題研究のレポートを仕上げることを目的としています。本ひな型と同じ年月のデータを、より深く解析するのでもよいし、別の年月のデータを同様に解析して、年ごとの違い、毎年の共通点を探すのもよいでしょう。大事なのは、ほんの小さな事柄でもよいので、執筆者(あなた)独自の発見やアイデアを盛り込むことです。その点が、あなたの研究論文の独創的な部分(オリジナリティ)になるので、そのことを論文で明確に主張してください。実際、サイエンスとはそんなものです。先人たちが積み上げてきた知識に、新たな要素を少しずつ加えてゆく作業ですから。希に、天才的なサイエンティストが、全く新たな考え方を発明することもあるでしょう。それだって、先人たちが積み上げた知識を土台としているはずです。

    •  一般公表されている海洋データを使って、研究に結び付くデータ整理と解析をやります。北海道から東北沖にかけて、水産庁の水研センターが観測モニタリングしている(A-Line)の実測データ、世界中の海洋データを集めて全世界中の海の平均像を描き出すデータセットのWorld Ocean Atlasなどがあります。これら以外にも、JAMSTECのデータダウンロードサイトもあります。まずは、身近で、連続的なデータが揃っている、A-Lineデータの整理と解析から取り組みましょう。


      → Ocean Data Viewで北西太平洋の海洋データ(A-Lineモニタリング)を解析
      Ocean Data Viewで北大西洋の海洋データ(A-Lineモニタリング)を解析

       Ocean Data View(ODV)とは、海洋データを使って作図するのに特化したソフトウエアで、ドイツのアルフレッド・ウェゲナー研究所(AWI)が無償で提供しています。世界中の多くの海洋学者が利用しています。ODVを、コンピューターに長けていなくても、使えるようにします。(現在、コース整備中で、順次、増やしてゆきます)私自身、ODVを学びながら、本サイトを構築しています。ODVの達人では全くありません。海洋学の専門家から、アドバイスを頂けると幸いです。


       世界中で観測された信頼ある実測データを集めて、全海洋(水平・鉛直)の気候値データ(World Ocean Atlas: WOA)が米国のNOAAより公開されています。海洋の気候値データとは、全海洋を格子状に区切って、実測データから格子点のデータを内部補完したものです。季節平均のデータセット、年平均のデータセットなどがあります。WOAのデータをOcean Data View(ODV)で簡単に解析できるように、それ専用のODVファイルが提供されています。これを使って研究解析をやってみましょう。データが多すぎて、何に焦点を当てればよいのか、迷ってしまいます。まずは、あるパラメタについて、シンプルに全海洋の水平分布を描いてみましょう。


      → WOCEデータをODVで作図する

       ODVのフォーマットに揃えた海洋オープンデータが、ODVのサイトから提供されています。これらも覗いて見ましょう。

       まずは、WOCEから。

      → GMT ver.5 の使い方

       こちらは、地図情報、マッピングソフトです。米国のハワイ大学が無償で提供しています。ODVより、細かい設定で作図ができますが、結構、難しいです。ちょっとしたプログラミングが好きなかたなら挑戦してください。(私が作ったGMTコースは、途中から更新していません。私も使い方を忘れてしまったので、GMTの質問は受け付けません)

    • 全世界に公開されている海洋解析データの利用


       人工衛星で海の色を計測して光合成色素のクロロフィルaの濃度分布が求められています。表面水温や海面高度の分布も求められています。これらは実測データと言えます。さらに、気象・海象データを統合して、全海洋の水の動態をシミュレーションした解析データもあります。これらも課題研究に役立たせてください。(以下、注意点も必ずご覧ください)

      気象庁の表層水温・海流分布図の利用

      JAXAひまわり海中天気予報:表面水温・クロロフィル分布図、解析図の利用


      解析データを利用する際のコメント

       人工衛星で直接調べられるのは、海面水温、海面クロロフィル濃度、海面高度です。気象庁HPでは、水深50 mや100 mの水温分布図を公開しています。これは、水の動きをシミュレーションした解析結果です。JAXAで公開している、塩分の水平・鉛直分布、水温の鉛直分布も解析結果です、これら解析結果が実際の海洋観測で得られた値と一致するとは限りません。もし、一致しないのであれば、海洋観測結果を信じるべきです。一致しない理由としては、人工衛星では捉えられないような、局所的(細か)な現象を海洋観測では捉えていることが考えられます。そうであれば、解析結果と海洋観測結果が一致しなかった理由を考えてみるのも、面白いかもしれません。

       World Ocean Atlas (WOA)で公開している、気候値データも、数年分の季節平均や年平均の解析結果です。WOAのような長期平均・空間平均の値と、ある時・場所の観測結果が一致しないのであれば、その理由を考察するのもよいでしょう。

    • 海洋学(主に海洋化学)の基礎を学ぶ


       北海道大学水産学部の授業内容を公開しています。順に学んでもよいし、必要に応じてつまみ食いするのでもよいと思います。

       → 海洋化学のコース(大学3年生向け。頑張れば、ついてこれるハズ)


      海洋研究を知る
       海洋学を、海の現場で学ぶチャンスを作るのは難しいです。まずは、動画で海洋観測の現場を知ってください。興味が増したら、是非、北海道大学水産学部に入学してください。

      北大水産学部のおしょろ丸とうしお丸での実習や観測風景

       → 練習船動画集


      機械好き、道具の仕組みを知りたい、海洋観測の手法を詳しく紹介しています。

       → 海洋調査手法(おしょろ丸の海洋調査部が作りました)


      北海道大学水産学部で行われている、海洋研究や水産研究を紹介しています。

       → LASBOSより海洋研究を紹介