トピックアウトライン

    • このレポートはホタテガイの一大養殖海域であるサロマ湖の環境データをもとに,ホタテガイのエサとなる植物プランクトンとそれらの増殖を支える栄養素の動態を解析しました
    • このレポートは,2024年に出版される書籍「サロマ湖はホタテガイを何枚育ててくれるか」の「第5章 栄養塩」の内容をもとに大幅に書き換えたものになっています。興味のある方はこの書籍も参考にしてください
    • レポートで使用しているようなサロマ湖の環境モニタリングデータはWEBで公開する準備を進めているところです
  • データセット

    • 北海道立総合研究機構 エネルギー・環境・地質研究所が2018年5月・7月・8月・10月に実施した調査のデータを利用しました
    • 数値が羅列されているワークシートをじっくり眺めていても,得られるものはあまりありません。まずは,片っ端からグラフを描いてみましょう。作ったグラフをレポートに使用するかどうかは,あとから考えましょう。レポートに使用しなかったからと言って無駄な作業ではありません。データを可視化することで,初めて気づくことが出てきます。場合によっては,何らかの原因により間違ったデータが含まれているものを発見することにもつながります
  • 解析の考え方

    ◆物理環境
    ある水域における物質濃度の分布は,物理的な環境と密接に関係します。物理環境を決定づけるのは,おおむね水温と塩分で決まる密度です。密度の異なる海水は混ざりにくいため,例えば鉛直的には密度のより大きな水がより深部に位置し,層状の鉛直構造を作ります。このような状態を成層化と呼びます。表層と底層で栄養塩の供給や消費のプロセスが異なれば,各層での栄養塩濃度には違いが生じます。また,塩分の低下は淡水が供給されたことを示唆します。主な淡水供給源である河川水は一般的に栄養塩濃度が高いため,塩分の水平分布を知ることで河川水の供給の影響を考えることができます。そのため,栄養塩濃度の分布を調べるうえでは,その水域での水温と塩分の時空間分布を調べることが出発点となります。

    ◆植物プランクトンと栄養塩
    植物プランクトンは肉眼ではほとんど観察できない微細な単細胞生物であり,海水中に浮遊しています。植物プランクトンは太陽光のエネルギーを使って二酸化炭素から有機物を作り出し,細胞分裂して増殖します。植物プランクトンの増殖は光合成に必要な十分な光量に加えて,栄養分を必要とします。植物プランクトンにとっての不足しがちな栄養分として窒素,リン,ケイ素の三つが挙げられます。海水中の窒素は硝酸塩,亜硝酸塩,アンモニウム塩(NO3,NO2,NH4),リンはリン酸塩(PO4),ケイ素はケイ酸塩(SiO2)として溶解しており,総称して栄養塩と呼ばれます。これら栄養塩の存在量が植物プランクトンの増殖の多少を決定するため,植物プランクトンの増殖環境を考えるうえで海水中の栄養塩濃度を把握することが重要です。また,植物プランクトンの増殖は栄養塩の消費を伴うことから,栄養塩濃度と植物プランクトン量の変化を合わせて理解する必要があります。

    植物プランクトンと栄養塩の量的関係は,それほど単純なものではありません。ある時ある場所の海水中の栄養塩濃度が高かったので,植物プランクトン濃度(量)も高い,という訳では必ずしもありません。物質の濃度は,その瞬間にその場所に存在していた量を示しています。一定時間前にどうだったか,あるいは一定時間後にどうするか,はわかりません。時間経過に伴う濃度の変化が分かると,その場で起こっている現象を説明する手掛かりとなります。閉鎖空間が仮定できた場合,ある期間に植物プランクトン量が増えたら,栄養塩濃度は減少します。しかし,実際の自然環境は閉鎖空間ではないので,物質は水平的あるいは鉛直的に移動します。濃度の変化が何を意味するのかを考えるためには,多くの基礎的知識が必要となるし,必要な情報が欠けていたら想像することすら難しくなります。とはいえ,我々が利用できるデータは【濃度】の値であることがほとんどであるため,今ある知識を総動員して,新たな解析手法を勉強して,海の中に隠されている現象を解明してみたいものです

  • 体裁

    • 体裁が整っている文章は読みやすいです
    • 体裁が整っていることは,論理的に記述されている印象を与えます
    • 体裁を整えることは,記述内容の良し悪しと関係なく,注意さえすれば誰でも100%達成できることですから,絶対にやりましょう
    • 例えば以下のような内容です
    • タイトル,学生番号,名前を示す。表紙として記載するかどうかはケースバイケース
    • 上下左右の余白,行間,文字間を読みやすく設定する
    • ページ番号を入れる
    • 読みやすい文字(フォント,サイズ)を使う
    • 適切な章立て,段落構成とし,文章の構造が分かりやすいように記述する
    • 適切な句読点,誤字脱字の排除
    • 国際単位系(SI)のルールに従った数値・単位の表記
    • 参考文献を適切に引用し,適切に記載し,適切にリスト化する
    • 図表については別に記載する
    • 文章の全体を通じて同じスタイルで書く
  • 図表

    • 図や表には,それが何を示しているのかを示す説明文(キャプション)が必要です。図のキャプションは図の下に,表のキャプションは表の上に配置するのが一般的です
    • 図表は必ず本文内で引用される必要があります。引用される順番に番号付けします。引用されない図表は記載してはいけません
    • グラフには最低限,以下のモノが記載される必要があります:枠線,目盛,目盛ラベル,軸タイトル・単位
    • 表の罫線は最小限とする傾向があり,縦罫線は使わない,横罫線は最低限の部分のみ,とするのが一般的ですが,研究分野によって異なります
  • おわりに

    • レポートは自分のために書くのではなく,読者のために書くものです。従って,自分勝手なレポートは受け入れられません。自分が分かればよいのであれば,「レポート」を書く必要がありませんので
    • レポートの書き方に関する書籍は山ほど出版されていますので,いくつかを読んでみて,しっくり来たものを自分のレポートに取り入れ,自分流のひな型を作りましょう
    • レポートや論文などの科学文章を作成するうえでのルールが存在します。テクニカルライティング,サイエンティフィックライティング,パラグラフライティングなどの用語が使われることがあります。科学文章の作成は能力ではなく技術です。技術を習得すれば,だれでも最小限の労力で,最低限の水準をクリアできる文章を作成できるようになります。それにもかかわらず,一般的な小学・中学・高校・大学では教わる機会がありません。自分で調べて学びましょう,一生の宝になります
    • 推薦図書
      倉島保美著.論理が伝わる 世界標準の「書く技術」 (ブルーバックス).
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