單元大綱

    •  海中の任意の深さから海水を採取することを各層採水といい、そのために用いられる器具を採水器といいます。これは、蓋の開いた状態でワイヤロープに取り付け、目的の深度まで下ろしてから蓋を閉めることでその場の海水を採取するものです。メッセンジャーと呼ばれる錘をワイヤロープに沿わせて船上から落下させ、これが採水器のトリガーを作動させることによって蓋が閉まります(図6)。

    • 採水器の仕組み

      6 メッセンジャーによる採水


    •  任意の間隔を空けて複数の採水器をワイヤロープに連装させれば、一度の作業で複数の異なる深度から海水を採取することができます。メッセンジャーがトリガーを作動させると、直ちに下層に向けて次のメッセンジャーが落下し始めるため、上層の採水器から下層の採水器にむけて次々と蓋が閉じていきます(7)

    • ニスキン採水器 連装方式による採水

      7 採水器の連装による多層採水

      a) 複数の採水器を任意の間隔でワイヤロープに取り付け、海中に降下させます。 b)それぞれの採水器は蓋を開けた状態にしておき、トリガーからメッセンジャーをぶら下げておきます。 c)上層からメッセンジャーが到達すると採水器の蓋が閉じ、それと同時に下層に向けてメッセンジャーが落下しはじめます。

    •  採水器は時代と共にいくつかの種類が考案されてきましたが、海水を貯める「採水筒」と採水筒を閉じる「蓋」とからなるという点で基本構造に変わりはありません。

       20世紀初頭から広く普及した採水器として、金属(黄銅)製のナンセン転倒採水器(Nansen bottle)がよく知られています。これは、採水器を転倒させることによって上下のバルブが閉まる機構を持つもので、転倒温度計と併用することで採水深度とその場の水温を同時に計測できることから、海洋観測の現場で広く用いられました。20世紀の終盤に入ると、分析項目の多様化や分析精度の向上が進むにつれ、採水手法にも改良が求められるようになります。そのため、金属(黄銅)製の為に重たいうえ、採取できる海水の容量が限られていたナンセン採水器は、新しいタイプの採水器に取って代わられるようになります。現在、もっとも広く利用されているのがニスキン採水器Niskin bottle)で、これは採水筒、蓋ともに塩化ビニル製でサイズバリエーションも1.2~30Lと豊富です(8)

    • 8 ニスキン採水器

    • ※ 転倒温度計

       転倒させると切断点で水銀球部と水銀柱とが切断され、転倒時の水銀柱の長さが保存される特殊なガラス水銀温度計。水圧を受けない「防圧式」と水圧を受ける「被圧式」の指示値を比較することによって、転倒時の水深(正確には水圧)を割り出すことができる(図9)。

      転倒温度計

      9 転倒温度計


    •  1980年代にはCTD採水システム(図10)が登場し、メッセンジャーを使用することなく船上から電気信号を送出するだけで採水できるようになりました。このシステムは、リアルタイムに深度ごとの水温・塩分の情報を取得しながら任意の水深で採水器の蓋を閉めて海水を採取するもので、従来のワイヤ連装方式と比べて正確な水深で確実に採水できます。主要な調査船においては、標準的な採水手段としてCTD採水システムが採用されています。


    • 10 CTD採水システム