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    • 北部ベーリング海は11月から5月に海氷に覆われる季節海氷域で、世界で最も生産の高い海域の一つであると指摘されています。水深が浅いため、嵐や大気冷却により冬季は水柱全体がよく混合します。その後の海氷融解と日射量の増加から、夏季の北部ベーリング海は、表層に高温で低塩分の水、底層に低温で高塩分の水が存在する2層構造を持つ海域となります。成層構造の強さは、有光層への栄養塩の供給を通じて生物生産に影響を与えることから、その時空間変動を理解することは生態系変動を考える上でも重要です。

      北部ベーリング海では、成層構造は主に海氷融解によって生じます。冬季海氷分布は年によって異なっていますが、2017/2018冬季(2017年末〜2018年3月頃までを意味します)には、冬季海氷は記録的に小さな面積となりました。本コースでは、2018年初夏におしょろ丸で取得した観測データに加えて、2017年、2013年の観測データ解析を行うことにより、初夏の成層の時空間変動とメカニズムを検討した結果を紹介します。成層強度の定量化には、Ladd and Stabeno 2012)の定義を改変して用いました。この定義を用いると、鉛直方向に密度が一定な場合は成層強度=0、成層構造が強くなるにしたがって成層強度の値も正の大きな値となります。


      図1:A〜Dは海域区分を示します。

    • 2013、2017、2018年で成層強度を比較したところ、冬季海氷面積が過去最小を記録した2018年の初夏は、全体的に2013、2017年より成層強度が小さいことが示されました(図2)。これは、2017/2018年の冬季の海氷面積が極端に小さく、海面への淡水供給が弱化、さらに底層が高温低塩分化したことが原因と考えられます。この傾向は、セントローレンス島南西部(海域A)、北部(海域B)で顕著でした(図3) 。例えば海域Bでは、2018年の成層強度は、2017と比べて1桁以上小さい値となっていました。しかし、アラスカ本土に近い海域C、Dにおいては、成層強度の経年変動は小さいことが示されました。アラスカ本土沿岸では、表層に高水温・低塩分のアラスカ沿岸水が毎年観測されており、その存在が強い成層をもたらしていると考えられました。以上の結果から、2017/2018冬季の最小海氷面積が、北部ベーリング海の成層強度に与える影響は、アラスカ沿岸水の影響が小さい西部海域(海域A・B)に限られることが示され、海氷分布の成層強度への影響は一様ではないことが示唆されました。


      図2:初夏における成層強度の分布(赤色ほど成層が強い)。



      図3:海域A〜Dにおける成層強度(図中ではSIと表記)の経年変動。SI(T)は水温による成層強度、SI(S)は塩分による成層強度を示す。

    • 2018年の観測中には、低気圧が通過し、4日ほど強い北風がベーリング海峡付近で観測されました。この低気圧通過の前後において、ベーリング海峡中央付近の南北ラインの海洋構造を比較したところ、低気圧通過に伴い、成層強度が通過前と比べて1桁大きくなっていることが示されました(図4)。これは、北風の卓越によって西向きのエクマン流が生じ(北風が吹くと、海洋表層ではエクマン流と呼ばれる西向きの流れが生じることが知られています)、ベーリング海峡中央付近の表層にアラスカ本土沿岸に存在するアラスカ沿岸水が輸送されたためと示唆されました。


      図4:2018年、ベーリング海峡付近における嵐通過前後における成層強度(図中ではSIと表記)の変化。SI(T)は水温による成層強度、SI(S)は塩分による成層強度を示す。

    • 本コースの内容は以下に基づいています。詳しい内容は以下の論文をご覧下さい。

      Ueno, H., Komatsu, M., Ji, Z., Dobashi, R., Muramatsu, M., Abe, H., Imai, K., Ooki, A., Hirawake, T., 2020, Stratification in the northern Bering Sea in early summer of 2017 and 2018, Deep-Sea Research Part II, 181–182, 104820. https://doi.org/10.1016/j.dsr2.2020.104820


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