海洋中規模渦:海の高気圧・低気圧
海洋生物資源科学部門・海洋環境科学分野・上野研究室の紹介です
海洋には数多くの渦(海洋中規模渦)が存在し、海洋生態系に大きな影響を与えています。以下の図は、衛星によって観測された海面における植物プランクトン濃度(正確にはクロロフィルa濃度)です。図から、沿岸域・亜寒帯海域で植物プランクトンが豊富であり、外洋域亜熱帯海域で植物プランクトン濃度が低いことが見て取れます。沿岸・外洋、南北の他に、植物プランクトン濃度に影響を与えていると考えられる渦状の構造が複数見られます(例えば、北海道南東沖)。これらは海洋中規模渦と呼ばれ、渦内・縁辺部の栄養塩の鉛直・水平輸送によって、活発な生物生産が行われていると考えられています。
大気には高気圧、低気圧が存在し、日々の天気を左右していることは皆さんご存じと思います。日本付近には、春や秋に高気圧と低気圧が西から東に移動し、天気がめまぐるしく変わります。このような高気圧、低気圧が、海にも存在していて、高気圧性渦、低気圧性渦と呼ばれています。また、両者をまとめて海洋中規模渦と呼びます。
下図を見てみますと、黒潮続流の北側に海面高度の高い渦状の構造(凸渦)が見られます。これが高気圧性渦です。海面が高いことは海面下の圧力が高いことを意味しますので、大気の高気圧と同じ向き(北半球では時計回り)に回転しています。また、黒潮続流の南側には、緑色で示された周囲より海面がやや低い渦(凹渦)が見られます。これが低気圧性渦です。また、海洋中規模渦程度以上のスケールにおいて、北半球では、海面が高い方を右に見て海水が流れることが知られており、その流れは地衡流と呼ばれています。日本東方海域に存在する中規模渦は、渦中心付近の水温から、暖水渦(暖水塊)、冷水渦(冷水塊)と呼ばれることが多いです。このうち、暖水渦は海面が周囲より高い高気圧性渦(凸渦)であり、海面付近の海水は時計回りに回転しています(下図)。暖水渦の海面が周囲より高いのは、暖水の密度が冷水の密度より低いためであり、海水より密度の低い氷山の一部が海面上に出ているのと似た現象です。ただし、海水温の差による渦内外の密度差は、海水と氷山の密度差よりずっと小さいため、暖水渦の深さ方向への広がり(1000m以上)に対し、渦中心付近の海面上昇はごく僅か(1m以下)となっています。氷山の場合、海面上に出る氷の体積は、氷山の全体積の10%程度です。
この図は、渦がない場合とある場合で平均した海面植物プランクトン濃度を示しています。渦がない時は、栄養物質が豊富に存在しているアリューシャン列島付近でのみ植物プランクトン濃度が高くなっています。それに対して渦が存在している時は、アリューシャン列島から数百キロ(緯度1度は111km)も南に離れた北太平洋外洋域にも豊富に植物プランクトンが存在していることが分かります。これは、渦に伴う水平輸送よって、アリューシャン列島付近の栄養物質が外洋域に運ばれ、外洋域の生物生産が活発になっていることを示しています。