單元大綱

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       海洋沿岸は、多様な生物が生息する場であり、水産資源を生み出す場でもあります。これを支えているのが、藻場に生えている海藻です。それらの生き方を理解し、その維持を目指すことでSDGs(海を豊かに)に貢献します。

       国連では2021年からの10年間を、「海洋科学の10年」に定めて、SDGsに貢献することを目指しています。国連が定める海洋科学には、水産漁業の分野も含まれます。


    • コンブには微視的な世代(配偶体)と巨視的な世代(胞子体)があり、巨視的な世代は私たちが養殖・収穫して利用する世代です。
      胞子体の成熟は、天然藻場での再生産を支え藻場を維持するためだけでなく、養殖の種苗生産用母藻を確保する上で、必要不可欠な生命現象です。
      そのため、その成功を導く様々な条件や仕組み、さらにはその人為的な制御技術の開発などに関する研究を行っています。


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                                                          図.コンブの生活環

    • 私たちが目にするコンブは、生活環の中で巨視的世代(胞子体という)に相当します。
      巨視的世代から微小世代(配偶体)への移行には、巨視的世代の成熟が重要な役割を担います。
      胞子体が成熟すると体表面が隆起し、子嚢斑と呼ばれる生殖器官を形成します。その中で、減数分裂によって遊走子と呼ばれる鞭毛を2本持った生殖細胞が作られます。
      放出された遊走子が、新しい基質に着底することで微小的(配偶体)世代へ移行します。
      配偶体世代は有性で、雌雄の配偶体が成熟し、それぞれの生殖細胞同士の受精を経て再び巨視的世代となります。

    • 海藻は沿岸域で藻場を構成し、生態系において様々な役割を果たしています。
      その役割には、沿岸生物の生活の場や育成の場を提供するだけでなく、餌料の供給源としての役割り、さらには環境保全(沿岸域における栄養塩類の保持、炭素固定や水質浄化、そのた相は作用や底質の安定化など)に至るまで、幅広い機能を持っています。
      これらの藻場の機能を果たすためにも、藻場の持続的な維持と管理が必要となります。
    • 本研究では、コンブが刻々と変化する環境の中でどの様な仕組みをもって生存し、また繁殖しているのかという疑問の解明を目的とします。
      特に、巨視的世代の成熟の成功は、天然藻場での再生産を支え藻場を維持するためだけでなく、養殖の種苗生産用母藻を確保する上で、
      必要不可欠な生命現象です。そのため、その成功を導く様々な条件や機構、さらにはその人為的制御技術の開発に関する研究を行うことで、
      養殖のみならず藻場の維持や環境保全に役に立てることを目的とします。

    • 北海道南部に生育するマコンブを例に、その巨視的世代の成長過程を見てみましょう。
      マコンブ胞子体は冬から春にかけて成長します。親潮(寒流)の豊富な栄養分を吸収して大きくなります。
      この時、余分な栄養分を体内に溜め込みます(和食文化を支えるグルタミン酸などの形で)。最も伸長する時期で、1日に凡そ5㎝伸びます。
      その後、春の植物プランクトンの大増殖(ブルーミング)以降、海水中の栄養塩類が枯渇すると、貯蔵した栄養分を利用してしばらく成長します。

    • やがて貯蔵した栄養分が無くなると、春から夏の光環境の好転に支えられアルギン酸などの多糖類が蓄積されます。
      やがて貯蔵栄養素もなくなってくると、先端部から枯れ(末枯れ)、そして成熟期を迎え生殖器官(子嚢斑)を形成します。
      その形成の時期や程度は次世代の生物量を大きく左右します。
      子嚢斑から放出される遊走子は、走化性を有し、狭い範囲ながらも、より良い微視的環境を目指して着底します。
      その後雌雄配偶体となり、生殖細胞同士の受精を経て再び胞子体世代となります。
      枯れていく先端部の組織は、子嚢斑部位や分裂組織への資源の供給源として機能し、その結果成熟することなく枯死していくことになります。
      まさに、先端の部位は、身を削って基部を生かす役目を担っています。
      生き残った基部の分裂組織は、再び親潮の恩恵を受けて再生し2年目の個体として成長していきます。  


    • 世界に分布するコンブの仲間には、巨視的世代は種類によって異なりますが、数十㎝から数十mに及ぶ長さをもっています。
      そのため、研究室で培養するのは困難です。
      そこで、研究室では、巨視的世代の組織片を培養することで、その成熟の仕組みをより詳しく調べています。
      培養には栄養分を補強した培地で行い、胞子体基部の分裂組織から先端部のどの部分にも子嚢斑を形成する能力があることが明らかになっています。


    • 胞子体葉状部の全ての部位が子嚢斑を形成する能力を持ちながら、自然環境下では先端部の多くの組織が成熟することなく流出していきます。

      子嚢斑形成には幾つかの条件が必要で、その一つが資源(栄養分)の蓄積です。

      つまり、自然環境下では、その資源の蓄積が成熟条件に満たされず(資源制限)成熟せずに流出していくことが明らかになっています。








    • 図 資源制限を受けていない胞子体ディスク(左)と受けているディスク(右)

    • コンブの胞子体は、自身を守り繁殖していくために様々な能力をもっている。

      その細胞壁は、セルロースを骨格に、アルギン酸や抗菌作用等の生理活性を示す粘性多糖類のフコイダンを含むマトリックスで構成され、クチクラと共に防御にあたります。

      表層細胞には、食植動物の忌避物質や紫外線防御としての役割を担うフロロタンニンを含むフィソードと呼ばれる細胞内構造が発達し、障害を受けた部位に大量に蓄積されます。

      また、アルギン酸由来のオリゴ糖をエリシターとして藻体に作用させると、活性酸素を生成し、様々な防御反応を誘導します。

      その反応の一つに、ハロペルオキシダーゼの活性化があり、抗菌作用を有するヨウ素化合物を体外に放出し、化学的防御の一端を担っています。

      この防御機構は、胞子体の生殖器官(子嚢斑)の保護にも重要な要素の一つとなっています。
      子嚢斑では、様々な能力を発揮し、遊走子(生殖細胞)を守り、次世代へ橋渡しを行っています。





    • コンブ胞子体の成熟個体は、養殖現場において藻場種苗生産用母藻として、あるいは藻場造成のための投入用母藻として、利用されています。
      いつ、どこでも、だれにでも、必要な量の種苗を確保することで、より効率の良い種苗生産や管理が可能となります。
      本研究で得られた、コンブの生き方についての情報に基づいた、より実践的かつ生産現場への応用が期待されます。
      コンブは、生活史を通して、様々な環境ストレスに対して、防御・生残・繁殖する仕組みを持っています。
      私たちは、その潜在的能力が最大限発揮できるよう、コンブを始め多くの資源海藻と向き合っていきます。 


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                              図 コンブの子嚢斑誘導条件



    • ・生物の成長と成熟の関係のように、コンブ胞子体の成長と成熟の切り替わるメカニズムや防御と成長・成熟の関係など不明点も数多く残されています。
       そのメカニズムに迫るべく、コンブの生き様を目を凝らして観察していく必要があると考えています。

      ・コンブには微小世代が存在します。自然環境下での微小世代がどのような能力を持って、時々刻々変化する環境の中で生き抜き、成熟・受精を経て再び私たちの目に触れるコンブ(胞子体世代)になるのか、この疑問を一つずつ明らかにすることが、藻場の潜在的回復力(シードバンクの量や質)を把握する上で必要です。

  •  増殖生命科学科 SDGS14