海面塩分に関する研究
海洋生物資源科学部門・海洋計測学分野・阿部研究室の紹介です
海洋は,地球の水(河川,湖沼,大気,氷河,海洋の合算)の97%を占めるように、地球の巨大な貯水タンクと言えます.
全球の水循環における海洋の役割は極めて大きいため,海洋からどれだけ水分が蒸発し、海洋へ淡水が流入したのかを知る必要があります。
蒸発や淡水流入の様子を捉えるには、淡水と塩分の混合率の指標である塩分濃度(以降,「塩分」と略)の時空間的な分布を正確に知る必要があります.
海洋の表層から中層までの塩分分布は,2000年代に始まったArgoプロジェクトと呼ばれる全球的な塩分(および水温)観測網により明らかになりつつあります.このプロジェクトは、自身の浮力調整機能により浮き沈みし、海洋表層から中層までのデータを取得する漂流型観測測器・Argoフロートを海にたくさん投入し,全球の海洋構造を明らかにするための国際プロジェクトです.
画像のご提供:海洋研究開発機構
(以下はホームページのリンクになります)
Argoプロジェクトにより全球海洋の塩分分布のおおまかな特徴が明らかに.
しかし,Argoフロートによって得られるのはせいぜい海面下5mまでです.
しかし,この海面から5mまでの表層は,大気-海洋間の蒸発・降水の影響,河川流出,海氷の結氷・融解に伴い,塩分がダイナミックに変化します.
また,Argoフロートは平均的に300km×300km(北海道と同程度の面積)に1台という割合でしか分布しなく,塩分の詳細な分布は得られません.
そこで人工衛星が登場します.
人工衛星は,電磁波を使って遠隔的に様々な海面の情報を取得します.
可視域
例えば,黒潮など南方系の水は澄んだ青色となっており,北方系の水は透明度の低い緑がかった色になっています.可視域における海の色の違いを人工衛星によって観測することで,植物プランクトンに含まれているクロロフィルa濃度の分布が得られます.
赤外域
可視光より波長の長い赤外域では,水温観測に利用されます.例えば空港に設置されているサーモグラフィー,これはゲートを通過する人の体表面から放射される電磁波の強度を測定し,体温に変換していますが,これと同じ原理で,人工衛星も海面水温を測っています.
海面塩分の観測には,波長の長いマイクロ波が使われます.
マイクロ波は,身近なところで言えば携帯電話の電波や,電子レンジ(英語名Microwave oven)などで,またレーダーや通信分野でも幅広く使われています.
海面から放射される電磁波は,低周波マイクロ帯で塩分に「感度」があることが知られています(感度とは,塩分の変化に対し電磁波の強度が変化することを意味).したがって,人工衛星が受信する海面からの電磁波の強度変化から,海面塩分を逆推定することができます.
しかし信号が極めて微弱であるため,塩分観測に要求される技術水準が極めて高く,近年まで実現できませんでした.