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    • 授業目標

       地球表面の約70%を占める海洋に存在する豊富な生物は,陸上の動植物資源にない環境で育つため,食料資源・生化学資源として優れた特性をもつ成分や多様な機能を有することがわかってきました。分子レベルでこれら成分,機能特性,よりよく利用するための化学的・生化学的アプローチを理解することは,食品産業,工業,医薬品等への応用,人類の幸せにつなぐ活用を知ることになります。本講義では,再生産可能なマリンバイオ資源の利用と人間生活との関わりについて学び,マリンバイオ資源の重要性を認識することが目標です。

      キーワード: 海洋生物,生物資源,利用,機能性,生命科学,食品,化学的環境保全,マリンバイオテクノロジー,SDGs

       

      講義タイトル

      次に示すテーマについて,オムニバス形式で講義します。講義の順序等は初回の講義のガイダンスで説明します。

      栗原秀幸 教授  「(初回)イントロダクションと水産物の多様な利用」

      (以降,順不同)

      安藤靖浩 准教授 「水産生物の脂質の構造・組成と分析」

      沖野龍文 教授  「海洋生物のケミカルシグナル」

      岸村栄毅 教授  「水産廃棄物の再資源化-未利用生物とその内臓」

      熊谷祐也 准教授 「水産資源の糖類と酵素」

      佐伯宏樹 教授  「北海道の未利用・廃棄水産資源」

      酒井隆一 教授  「海洋生物に薬を求めて」

      清水宗敬 教授  「水圏生物の生理学的・生化学的適応」

      埜澤尚範 准教授 「魚の骨の利用研究」

      藤田雅紀 准教授 「遺伝資源としての海洋生物」

      別府史章 准教授 「水産資源と未病」

      細川雅史 教授  「マリンカロテノイドの健康機能」

      丸山英男 准教授 「バイオマス・バイオプロダクトの分離操作」

      山崎浩司 教授  「水産資源の利用と微生物」

      吉川修司 博士  「魚醤油の発酵生産技術」 

      代表教員

       栗原秀幸(北海道大学大学院水産科学研究院)

       

      参考図書

      島 一雄 他() (2012). 「最新 水産ハンドブック」, 講談社, 東京.

      坂口守彦, 高橋是太郎()(2011). 「農・水産資源の有効利用とゼロエミッション」, 恒星社厚生閣, 東京.

      Tu, A.T., 比嘉辰雄(2012). 「海から生まれた毒と薬」, 丸善出版, 東京.



    • 1.マリンバイオ資源とは、海洋の生物資源全般を指す。

      すなわち、海洋微生物からプランクトン、藻類、海藻、魚類、棘皮動物、軟体動物、甲殻類、海獣類など、多様な生物を含む。

      これらの生物は我々がすでに食料はじめ、産業利用しているものもあるが、未利用の資源や、また既利用でも副産物の有効利用や廃棄物対策など解決すべき課題がある。

      海洋生物の機能には、未解明のもの、未探索のものがあり、それを探索(スクリーニング)することによって、新たな利用途や新有用物質をを入手できる可能性がある。

      抽出や分離の手法開発、構造と機能の解析、栄養・薬理・安全性、など目的に応じて多岐にわたる基礎、応用の研究が必要である。


      2.海洋生物から新規の機能性成分の探索

      機能性とは、大きく栄養機能、生理機能、加工機能などに分けることができる。

      食品としては、栄養機能はもちろん、生理機能としての味や香、食品に組み立てるための加工特性も機能として評価される。

      医薬品であれば、生理活性、薬理、代謝、毒性も含めた機能を調べる必要がある。


      3.水産物および水産製品の高付加価値化

      既存の製品であっても新たな価値の付与は、ユーザーのニーズにマッチすると製品単価や売り上げの向上が期待できる。

      栄養や健康機能成分の付加ばかりでなく、もともと含まれている成分の栄養健康機能についての新知見が見出されることも価値の付加といえる。

      製造後術の発展による高品質化、高鮮度保持技術の開発、安全に対する取り組みの信頼性、環境負荷低減への取り組みも価値として評価される。


      4.食品の消費と開発動向に影響する要因

      消費者による食品の消費や食品業界における製品開発の動向には、多くの要因が関係している。

      消費者の嗜好、志向、生活スタイルと新しい加工・保蔵技術、食品の開発は、密接に関連してる。


      近年では、日本近海の水産物の漁獲量の減少により、水産食品の原料供給が厳しい状況にある。

      高付加価値化は、新規素材、未利用素材の開拓とともに、その解決手段のひとつと考えられている。

      原材料の有効利用により、最終的に廃棄物ゼロを目指すゼロエミッションの考え方、

      環境配慮の取り組みも評価されつつある。


      北海道は日本全体の漁獲量の約25%を占めるが、主要水産物(サケ、スケトウダラ、ホッケ、スルメイカなど)の生産量は近年減少傾向にある。

      近年、南方系のブリの漁獲が増えているのが特徴的である。海水温の上昇など環境変化に起因している可能性がある。




    • 5.バイオ資源としての水産物の特徴

      海洋には多様な生物種が存在している。

      魚を例にとると漁業生産においては、一度に大量に漁獲される多獲性のものが多い。

      肉質、成分組成が一定していない。季節や生理状態(産卵期)、部位(背部と腹部)による変動が大きい。

      鮮度低下が早く、腐敗変敗しやすい などの特徴がある。


      鮮度低下が早く、腐敗変敗しやすいことは、食品としての安定性、安全性に影響するため、非常に扱いにくい食材といえる。

      水産学部では、畜肉や穀物よりも取り扱いや加工・保存に注意すべき魚介類の食品化学、生化学を扱うため、卒業生には食品企業の研究開発職で活躍している人材が多い。


      6.マリンバイオ資源の利用にあたって

      マリンバイオ資源は、水揚げ直後から鮮度の低下、微生物の作用を受け、品質の変化や腐敗、変敗が進む。

      これらには、成分変化や食中毒など健康危害リスクの増大も含まれる。

      これらの反応は、畜産物や農産物よりも速く、低温でも進行しやすい。

      したがって、適切な保蔵の処置が必要になる(冷蔵や冷凍、酸化防止など)。


      7.変敗・腐敗による生物資源の流れの変化

      適切な保蔵手段がとられない場合、品質低下したものは廃棄の対象になり、赤矢印の方向への流れが太くなる。

      保蔵対策は第一に重要であるが、完全利用、有効利用によって、副次産物や廃棄物の最小化も考慮しなければならない。


      8.北海道における水産系廃棄物発生量

      ・水産系廃棄物: 全国でも北海道が最大129万トン 次点は長崎、宮城の20万トン台

       北海道の水産物水揚げは全国の1/4 それに応じて廃棄物も多い

      ・ほたてがいは全国で55万トン水揚げ、うち8割が北海道。貝殻は水産系廃棄物の45%を占める

       付着物は垂下養殖で多い 地蒔養殖では付着物少なく貝殻利用しやすい(貝や漁具への付着物は23%)

       魚類加工残渣、内臓等が30%程度

      ・副産物・廃棄物の有効利用は大きなテーマ  SDGsに貢献