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北海道大学水産学部おしょろ丸海洋調査部 今井圭理、小熊健治、澤田光希
海洋研究あるいは調査のための海水採取にニスキン採水器(Niskin Bottle)が世界的に広く使用されています。海洋観測機器類を製造販売しているGeneral Oceanics社を創設したニスキン博士が考案したのが始まりと言われています。
北海道大学水産学部おしょろ丸海洋調査部 今井圭理、小熊健治、澤田光希
海洋研究あるいは調査のための海水採取にニスキン採水器(Niskin Bottle)が世界的に広く使用されています。海洋観測機器類を製造販売しているGeneral Oceanics社を創設したニスキン博士が考案したのが始まりと言われています。
塩化ビニル製の採水筒と蓋とからなり、上下の蓋をゴムチューブあるいは金属製のバネの弾性力で閉める機構となっています(図1)。採水器から試水を取り出すには採水筒の上部にある空気孔(エアベント)を開放し、採水筒の下部にある採水口(ペットコック)を押し込みます。上下蓋、空気孔(エアベント)および採水口(ペットコック)の詳細な構造をそれぞれ図2に示します。いずれもOリングをパッキンとして密閉性を保ち、別の海水が混入することのないようになっています。
図1 ニスキン採水器の構造
図2 ニスキン採水器 開口部の仕組み
a) 採水筒の上下の開口部にはOリングがはめ込まれており、このOリングと蓋とが密着することで密閉性が保たれます。 b)空気孔にはT字状に穴がくり貫かれたねじ込み式のバルブ(エアベントバルブ)がはめ込まれており、これをねじ込むとOリングがつぶれてバルブの穴がふさがれます。反対にバルブをひねって緩めると採水筒内に空気が入ります。 c)採水口にはT字状にくり貫かれた貫通孔の開いたコック(ペットコック)が差し込まれており、コックを前後にスライドすることで採水口の開閉を行います。引き出した状態のときは2本のOリングによってコックの穴がふさがれます。コックを押し込むと穴が解放され、海水が流れ出てきます。コックをスライドさせるための持ち手となる円盤(プルディスク)には小さな穴が開いており、この穴の位置を採水筒から突出している金属の棒(ガイドピン)の位置に合わせないとコックを押し込めない構造となっていて誤って開放しづらくなっています。
蓋を開けた状態の採水器をワイヤロープに取り付け、目的の深度まで下ろしてから蓋を閉めて採水します(図3)。
図3 ワイヤロープに固定されたニスキン採水器
・採水器のセッティング
採水器をワイヤロープに取り付ける前に、採水器の蓋を開けた状態にしておきます(図4,図5)。また、採水口と空気孔が閉まっていることを確認します。
図4 蓋の開放とトリガーへのセット方法
a)上蓋を開けます。取っ手の内側にテグスを通し、その先端をトリガーピンに固定します。トリガーピンはプッシュロッドの上下の動きに合わせてスライドします。 b)下蓋を開けます。テグス先端のスナップフックを上蓋のテグスにひっかけます。 c)セット完了です。
図5 蓋を開けるときの注意点
蓋を開ける際に強い衝撃が加わると、採水筒のフチが欠けてしまって採水器の密閉性が損なわれる恐れがあります。ゴム(またはバネ)を伸ばす方向(上蓋であれば上方向)に引っ張ってから倒すようにすれば、衝撃を加えることなく蓋を開けることができます。
・ワイヤロープへの取り付け
錘を吊り下げて張った状態にしたワイヤロープに、背面に装備された固定具(クランプ)で採水器を取り付けます(図6)。
図6 ワイヤロープへの固定方法
クランプボルトの溝にワイヤロープをはめ込み、蝶ナットを締め付けることで採水器を固定します。上部→下部の順に二か所で固定します。
・蓋の閉鎖
ワイヤロープに沿わせて落下させた錘が採水器のトリガーに衝突することによって蓋が閉まります。ニスキン採水器のトリガーの仕組みを図7に示します。落下してきた錘によってプッシュロッドが押し下げられると、リリースピンが下方にスライドし、ピンに固定されていたナイロンテグスが外れて蓋が閉まります。トリガーを作動させる錘はメッセンジャーと呼ばれ、ワイヤロープに沿って脱落することなく落下させるための閉鎖機構をもっています(図8)。
図7 ニスキン採水器のトリガー機構