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属や科を分類するには
属や科などの高位分類群では,共通の特徴の有無でグループを認識することになる。しかし,どの共通性を採用するかは観察する人によって変わることがある。たとえば,X,Y,Z の 3 種がいたとする。X と Y は A という共通の形質を持つが,Z にはこれがない。一方,Y と Z は B を持つが,X にはない。いま,A に着目すれば X と Y をまとめることができるが,B に着目すると Y と Z をまとめることになる。どちらのまとめかたが妥当なのだろうか……。もし,研究者によって分類体系が異なり,複数の分類体系が示されていると,分類学を専門としない研究者が,自身の研究対象の科や目などを調べようとしたときに困ってしまうであろう。したがって,分類体系の妥当性を判断する客観的な基準が求められるのである。
進化の道筋をたどる
生物は進化するものであり,ある種から枝分かれして新たな種が誕生してきたとすると,現生種(現在の地球上に生息している種のこと)も含め,これまで地球上に現れた生物はすべて何らかの血縁関係を持つことになる。この血縁関係のことを系統類縁関係(phylogenetic relationships)という。系統類縁関係は生物の進化の道筋でもある。これをたどることによって,どの種とどの種が近縁であるとか,どのグループとどのグループが縁遠いのかがわかる。たとえば,数種が近縁で,一つのグループを形成するとしよう。このような近縁種群は,直近の祖先種が進化の過程で獲得した,各種が共通に持っている新しい形質を見つけることによって他種と区別できる。この新しい形質のことを派生形質(derived (apomorphic)character)といい,ある近縁種群に共通する派生形質のことを共有派生形質(synapomorphy)という(一方,もともとあった形質は派生形質に対して原始形質(primitive(plesiomorphic)character と呼ばれる)。したがって共有派生形質は,そのグループを定義するのに極めて客観的な根拠となる。
このように,系統類縁関係に基づいてグループを認識し,共有派生形質によってグループを定義することで,種より高位の分類を行い,分類体系を構築する場合,単に分類とはいわずに,系統分類(phylogenetic systematics)(学問領域としては系統分類学)という名称を用いる(図 1.5)。
図1.5 仮説的な系統類縁関係とそこから得られる分類体系の一例。黒四角は各グループを支持する共有派生形質を表す。
系統分類といえる種分類もある
系統分類は属や科など種より高位の分類に用いられるが,種分類であっても系統分類といってよい場合もある。たとえば,マダイという種の学名(種名(species name または name of a species))は Pagrus major だが,この場合の Pagrus は属名(generic name,genus name または name of a genus)で,major は種小名(specific name)である。このように種の学名は属名と種小名の組み合わせで表現されるため(第 3 章で述べるが,このような方法を二語名法(binominal nomenclature)という),種が所属すべき属も検討される。属は種より高位のグループなので,もし系統類縁関係を考慮しながら属を検討するならば,それは系統分類といえる。しかし,いつも系統類縁関係を背景として種分類が行えるわけではない。すべての分類群で詳細な種間関係が網羅的に推定されているわけではないからである。とくに新種(new species)の場合はできるだけ早く論文にまとめて公表するために,論文に系統的位置までは含めないことが多い(第4章のトピック「新種発見のエピソード—キタガワヘビゲンゲの場合」もご覧ください)。そのような場合は,従来から用いられている属の分類形質(共有派生形質とは限らない)を手がかりとして帰属を検討することになる。
同様に,個体間の系統類縁関係を詳細に調べ,得られた関係をもとに種を定義する場合も系統分類といえるだろう。個体間の関係は遺伝子を用いて推定するのが一般的で,すでに紹介した Ho et al.(2012)はこういった研究の一例である。