섹션 개요

    •  2011年の原発事故の際、報道機関が「〇×から放射性物質が検出されました!」と一斉に報道して世間を騒がせた。ここで、あえて“騒がせた”と記したのは、報道機関のリポーターたちが“検出”という科学用語を理解しているとは到底思えない報道っぷりだったからである。検出限界値とその定義を示したうえで“検出されました!”と報道したところがあっただろうか。地球のあらゆる元素(放射性元素も含む)は、地球全体に拡散しているのだから、環境試料を究極まで濃縮すれば、何だって検出することができる。その検出の意味を説明しなければ、全く意味を成さないのである。皆さんは理系人として生きてゆくのだから、“検出”の概念を理解してほしい。ちなみに、2023年に原発の事故処理水に含まれる放射性物質のトリチウムの放出状況が報道された際には、その報道内容に「検出」の概念が含まれていたので、報道機関も学習したようである。

    • 定量可能と定める条件3つ

      1)定量下限:ブランク測定の信号強度の 平均 + 10×σ(標準偏差)

      2)回帰直線(検量線)上に、定量可能範囲の標準試料のプロットが乗っていること

      3)繰り返し測定の精度(変動係数)が許容範囲内であること

      これを、以下で学んでもらいます。

      次のコース(練習問題2)で、演習課題に取り組みながら、慣れてもらいます。


    •  ところで、先のコースにて、練習問題(1)の標準試料①は、濃度がゼロのブランク試料であるのに、ソコソコ大きな信号強度(453)があるではないか。ブランク試料でピークが表れるということは、試料調整に用いた水にNO3-が混入していたか、実験室の空気からNO3-が混入したか、分析装置のラインにNO3-の汚染源があったか、何かしら問題がありそうだ。そのような問題の不安を解消するため、必ずブランク試料を何回か測定し、そのバラツキ(標準偏差)を求めておく必要がある。

    •  ブランク試料(イオンクロマトグラフィの場合、純水)を11個用意して、イオンクロマトグラフィーで測定し、その平均値と標準偏差を求めよう。標準偏差が大きいとバラつきが大きく、標準偏差が小さいとバラつきが小さい。信号強度が全て同じ値であれば、標準偏差はゼロになる(バラつきがない)。

    • ブランク試料(11個)の測定結果

      ブランク試料の信号強度:453, 469, 401, 499, 423, 503, 483, 433, 492, 429, 512

      ブランク試料の11回測定の信号強度の平均    :463

      ブランク試料の11回測定の信号強度の標準偏差(σ) 37.6
       

      分析化学では、

      定量下限:ブランク測定の【平均値+標準偏差の10倍(10σ)】

      検出下限:【平均値+標準偏差の3倍(3σ)】を検出下限の必要条件とすることが多い。

      (※ 定量下限や検出限界については、次に詳しく説明する)

       

       このケースでは、標準偏差の10倍(10σ)は376である。この分析による定量下限の信号強度は839(=平均+10σ)と定めることができる。仮に、未知試料の信号強度が839に満たなければ、濃度値を記すには不確実性が大きすぎるので、定量下限未満,LOQ: Limit of Qualification」と報告すべきである。NDNot determined)と記してもよいが、これはNot detected(検出しない)の略と同じになってしまう。定量下限については、LOQを使った方が誤解を生まない。

    • 検出限界と定量下限

      この二つの言葉は、厳密に使い分けて、内容を理解しなければならない。将来、分析化学に携わらないにしても、理系人ならば知らなくてはならない大事なことを含んでいる。

       

      検出限界(もしくは検出下限):ブランク試料を測定したときの信号強度に対して、未知試料や標準試料を測定したときの信号強度を有意に区別できる限界のことである。("有意"とは、意義の有る、という意味の統計学用語である。英語で言うと、significantly。統計用語なので、統計値(平均値や標準偏差など)を用いて、それを定義する必要がある)

       

      定量下限:未知試料や標準試料を測定したとき対象成分の信号強度を有意に検出したうえで、濃度を求めるのに足りるだけの信頼性を有する下限

      定量上限:濃度を求めるのに足りるだけの信頼性を有する上限。

       

      定量範囲(定量下限から上限までの範囲):検量線に直線性があり、かつ同一試料を繰り返し測定して、ある程度の再現性が保証される範囲。ただし、定量範囲を濃度の低い方と高い方の二つに区切って、それぞれ別の検量線を用いることもある。また、検量線を二次曲線や指数関数で求めることもあるが、この場合は変動が大きくなることもあるので要注意。

       測定の目的に応じて、各分析者が検出限界や定量範囲を決める。その根拠や限界値を報告書にシッカリ記すことが大事である。

       低濃度範囲において、ブランク測定の平均+10σの定量下限の条件をクリアしていれば、それで万事OKとも限らない。先に説明したように、低濃度範囲を拡大表示しても、回帰直線(検量線)上に標準試料のプロットが乗っている必要がある。

       

       もう一つ注意しなくてはならないのは、低濃度範囲では、測定の繰り返し精度が悪いことである。繰り返し精度の良し悪しは、標準偏差/平均(=変動係数)で表される。同じ試料を分析しても、変動係数の範囲で結果がばらつくことを意味する。つまり、分析結果には、それくらいの「誤差」が含まれることを承知する必要がある。

    • 【変動係数や標準偏差の説明】

      測定項目xについて、繰り返し分析をi回行った。平均、分散、標準偏差、誤差(変動係数)は、以下のように計算される。

      平均値(ave)   1/n×Σxi                  (Σは、i=1nの積算)

      分散(S)         1/(n-1)×Σ(xi – ave)2

      標準偏差(σ) S0.5

      変動係数       :σ/ave

      変動係数(%)  (σ/ave)×100

      分散や標準偏差については、関数電卓やエクセルの関数に組み込まれているので忘れても困らない。それでも一応、計算方法を確認しておこう。下の分散Sと標準偏差σの空欄に値を記しておこう。

       

      ある環境試料(やブランク試料)について、低濃度範囲の試料を繰り返し測定した結果(a)が、20, 21, 20, 19, 20, 18, 21, 20, 19, 22 であった。

      ave = 20       S =       σ =        、変動係数 = 5.77 %

       

      平均や標準偏差、変動係数の意味を理解するため、測定結果(a)を単純に10倍したものを、測定結果(b)とする。

      繰り返し測定の結果(b):200, 210, 200, 190, 200, 180, 210, 200, 190, 220

      ave = 200      S =       σ =        、変動係数 = 5.77 %

       

      a)の結果を10倍に増幅した(b)の結果は、ave10倍、S100倍、σが10倍になっている。しかし、変動係数は(a)と(b)で同じである。(a)と(b)の誤差(%)は同じといえる。変動係数の意味がなんとなくわかっただろうか。

      分析化学では、測定感度をあげるため、信号強度を増幅(amplitude)させることがある。スピーカーの音量をアンプで増幅するのと同じである。ただし、信号(音声)とノイズ(雑音)を一緒に増幅させると、聴きやすさ(測定精度である誤差・変動係数)は変わらない。ノイズを除去することが欠かせないのである。

    • さて、「偶然誤差(変動係数)の許容範囲」に話を戻そう。分析者が、変動係数で何%までを許容範囲とするかを定める。未知試料に対して、毎度10回も繰り返し測定するのは大変すぎて現実的ではないから、標準試料(もしくは代表的な未知試料)を10回繰り返し測定して分析精度を確認しておくことが多い。ここで注意したいのは、実際の分析化学では、低濃度ほど、分析結果のバラつきが大きくなる(精度が悪くなる)ことである。これは、低濃度ほど、汚染の影響が大きく表れるからである。低濃度の未知試料の測定精度を保証するため、その濃度に近い標準試料の繰り返し測定を行い、誤差(変動係数)を調べておく必要がある。

    • 定量可能と定める条件3つ

      1)定量下限:ブランク測定の信号強度の 平均 + 10×σ(標準偏差)

      2)回帰直線(検量線)上に標準試料のプロットが乗っていること

      3)繰り返し測定の精度(変動係数)が許容範囲内であること

      どれくらいの誤差(変動係数)まで許容するかを、分析者が自ら定めて、報告書に明記すること。