航海概要・研究内容
Topic outline
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おしょろ丸@函館
本年6月から2ヶ月間、水産学部附属練習船おしょろ丸がベーリング海から北極海縁辺海であるチュクチ海への航海を実施します。おしょろ丸としては、2018年以来5年ぶりの外国航海になります。
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- 海洋物理観測(水温・塩分等):CTD・採水
- 海洋化学観測(炭酸系、栄養塩、溶存有機物、放射性核種等):採水
- 植物・動物プランクトン採集:各種ネット・カメラ・採泥
- 魚類採集:各種ネット・トロール
- 環境DNA採集:採水
- マイクロプラスチック採集 :ニューストンネット
- 海鳥目視調査
- 海棲哺乳類目視調査
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航海の背景・目的
北極海の海氷はこの数十年間にわたって大きく減少しており、今後さらに減少することが予測されています。また、北極域は世界平均より顕著に温暖化しており、今後も世界平均より大きく温暖化することが予測されていて、北極温暖化増幅と呼ばれています。海氷の減少や海水温度の上昇は、植物プランクトン等の低次生態系から海棲哺乳類等の高次生態系を変化させ、生物多様性に影響を与えています。2021年に東京で開催された第3回北極科学大臣会合の共同声明では、「海氷の減少による影響は、沿岸の浸食や海洋生態系の変化を加速させ、北極の社会経済的な影響をより広範囲に及ぼす可能性がある。」と指摘されています。北極の生態系や生物多様性を保全するためには、調査やモニタリングにより科学的情報を収集し、その理解を深めた上で対策を講じることが重要です。
北極の環境変化とその生態系への影響の理解に関し、おしょろ丸も多くの貢献を行ってきました。例えば、1990〜2013年におしょろ丸で採集した魚類のデータ解析からは、スケトウダラ等の底生魚類の群集構造は海氷後退時期の影響を強く受けることが示されています(Nishio et al., 2020)。最近では、ベーリング海北部における海氷融解の時期が例年通りであった2017年と海氷融解が記録的に早かった2018年に、ベーリング海北部からチュクチ海南部海域の観測を実施しました(Ueno et al., 2020)。その結果、海氷が早く融解すると魚類の餌として有用な大型の動物プランクトンが減少し、魚類の餌環境が悪化することが明らかになりました(Kimura et al., 2022)。また、海鳥の目視調査により、海氷融解が記録的に早かった2018年には、海鳥は餌生物を探すのが困難であったことが示されました(Nishizawa et al., 2020)。
本航海では、文部科学省北極域研究加速プロジェクト(ArCS II)の支援を受け、ベーリング海北部から北極海の縁辺海であるチュクチ海を対象海域として、海洋の熱・物質循環の変動、一次生産(植物プランクトン)から高次生物(海棲哺乳類等)までの海洋生態系を、海洋観測、サンプル採集、飼育実験、目視観測等によって明らかにする計画です。これらの観測により、海洋環境の変化が海洋生態系に与える影響の総合的な理解を目指します。なお、今回の観測では、ネット・トロールによる魚類採集に加え、環境DNA(環境中に存在する生物由来のDNA)観測を行うことで、魚類群集構造の変化を多角的視点で捉えます。
練習船おしょろ丸は、「洋上のキャンパス」であり、本航海で実施する様々な海洋観測は、学部生、大学院生の実習として実施されます。研究を主目的として乗船する学部生、大学院生の多くは本学水産学部、水産科学院所属ですが、大学間交流協定を締結しているアラスカ大学フェアバンクス校の大学院生を含め、他大学の大学院生も乗船し、修士、博士論文に関連した観測、データ収集を行います。また、本航海の後半(レグ3:米国アラスカ州ノーム〜函館)では、ArCS II重点課題①人材育成・研究力強化に基づき、全国の学部学生を対象とした公開実習を初めて実施します。国立・私立大学から文系学部を含めて10名の実習学生が乗船し、自然科学系の海洋観測を行うだけでなく、北極圏の歴史や文化も学ぶ予定です。乗船後には、北極域の研究者を目指すだけでなく、企業・行政・教育・NPOなどの様々な社会活動を通じて、直接的・間接的に北極域の諸問題の解決や北極域に関する知識の普及にかかわってもらうことを期待しています(https://www.nipr.ac.jp/arcs2/info/oshoro-2023/)。
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おしょろ丸北極航海には、朝日新聞社の中山記者が乗船しています。日本と電話をつなぎ、おしょろ丸での様子を紹介しています。ぜひ一度ご覧ください。
朝日新聞イベント事務局YouTubeチャンネルより
(朝日新聞ポッドキャストより) -
7月12日、おしょろ丸はレグ3航海(公開実習航海)に向けて、
米国アラスカ州ノームを出港しました。 ノームからは公開実習生10名を含む17名が新たに乗船し、船内は新たな雰囲気になりました。 出港後は、海棲哺乳類・海鳥目視などの観測・実習を行いながら、チュクチ海北緯70°付近の氷縁域を目指します。 ノーム港を出港するおしょろ丸(2023年7月12日、撮影:上野洋路) -
7月14日、本航海最北到達点の北緯69度58.3分、西経168度29.3分にて流れ氷を採取しました。流れ氷は、海氷が密集しているところ(おしょろ丸から目視できました)から一部離れて流れてきたものです。採取した流れ氷は、このあと融かして様々な成分について調べます。
流れ氷採取風景。写真中央の網の右上に浮いている白っぽい物体が流れ氷です。この写真を撮った後、乗組員の巧みな網さばきで海氷は船上に引き上げられました。(2023年7月14日、撮影:上野洋路) -
7月15日、北極航海レグ3で初めてのカイトトロールを実施しました。カイトトロールは環境への影響を最低限に抑えた着底トロールです。この日はカニ、エビ、ヒトデ、底生魚類など多くの生物を採集することができました。
カイトトロール投網風景(2023年7月15日、北緯69.5度、撮影:上野洋路)
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チュクチ海最後の観測点に向かって南下中に、乗船者で記念撮影を行いました。おしょろ丸は、この記念撮影の翌日にベーリング海峡を抜けてベーリング海に入りました。
2023年7月16日、チュクチ海にて
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米国アラスカ州セントローレンス島西方海域で、最後の大観測を実施しました。写真はMOHTと呼ばれる中層トロール網です。本観測点では、MOHTにより、稚魚やクリオネ、カイアシ類などを採集できました。今後は、夜間にプランクトンネットによる採集を行うほかは函館に向けて航走するのみとなります。
MOHT投網風景(2023年7月18日、セントローレンス島西方沖、撮影:上野洋路)
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公開実習参加学生が参加する海洋観測は昨日で終了し、人文社会科学分野に関する講義やグループディスカッションが始まりました。初日となる今日、公開実習参加学生は北極域研究学習ツールThe Arctic(北極ボードゲーム)を通じて、変わりゆく北極を体験しました。その後、世界や日本における北極研究、北極政策の歴史などを学び、北極域研究の未来についてグループディスカッション行って、最後にグループ発表を行いました。
北極ボードゲーム実施風景(2023年7月19日、撮影:上野洋路)
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おしょろ丸北極航海は6月8日に函館を出港して以降、本格的な荒天には一度も遭遇せず、順調に観測を進めてきました。しかし、昨日から若干の荒天となり本航海で初めて洗濯機使用禁止になりました。波高2.5メートルを超える揺れの中で洗濯機を使用すると故障することが多いので、おしょろ丸では荒天時の洗濯機使用を禁じています。手洗い洗濯や乾燥機の使用は可能です。なお、天候はすぐに回復して洗濯機使用禁止は1日で解除になりました。
洗濯機使用禁止の札 ブリッジから見たおしょろ丸船首
(2023年7月20日、撮影:上野洋路) (2023年7月20日、撮影:上野洋路) -
北極域研究加速プロジェクト(ArCS II)おしょろ丸公開実習に社会人参加者として乗船している朝日新聞社中山記者に、北極と南極の講義を行って頂きました。南極観測の歴史、観測内容、中山記者自身が越冬した際のさまざまな経験、また、グリーンランドでの取材に関しても伺うことができました。学生たちは講義後も熱心に質問していました。次回は北極を中心に講義を実施して頂く予定です。
中山記者の講義風景(2023年7月20日、撮影:上野洋路)
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7月22日、おしょろ丸はアリューシャン列島を抜け、約1ヶ月ぶりに太平洋に戻ってきました。アリューシャン列島を通過する際には、多くの海棲哺乳類や海鳥を見ることができました。また、日付変更線を超えたため、船内時刻の7月22日の翌日は7月24日になります。
アリューシャン列島通過時に海棲哺乳類を目視する公開実習生(2023年7月22日、撮影:上野洋路)
海棲哺乳類・海鳥目視チームの学生たち(2023年7月22日、撮影:上野洋路) -
アラスカ大学フェアバンクス校博士課程学生のNicholas Parlatoさんに、北極圏の先住民族の歴史と開発に関する講義をしていただきました。北大北極域研究センター大西先生の通訳付きです。非常に興味深い内容で、実習生からは英語、日本語(大西先生通訳)の両方で質問がありました。午後は、グループディスカッションを行い、先住民と開発について英語で簡単なグループ発表を行いました。
Nicholas Parlatoさんの講義風景(2023年7月25日、撮影:上野洋路)
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公開実習に社会人参加者として乗船中の「海遊館」飼育員の方に、今回の観測で採集できた魚類、底生生物等について、さらに水族館の役割や飼育員の仕事についての講義を行って頂きました。学生からは多くの質問が出て、大変盛り上がりました。午後には、船上で飼育している生物への餌やり体験や、クリオネの水替え体験などを実習として行いました。
海遊館飼育員の方の講義風景(2023年7月26日、撮影:上野洋路)
クリオネの水替え風景(2023年7月26日、撮影:上野洋路)
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7月31日、函館港外に到着しました。明日8月1日に、予定より2日早く函館港に帰港します。
おしょろ丸から見る函館山(2023年7月31日、撮影:上野洋路)
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8月1日、函館に帰港しました。6月8日に函館を出港後、驚くほどの好天に恵まれ、予定していた観測を全て実施することができました。船長をはじめ乗組員の皆さま、乗船学生・研究者の皆さま、そして陸上から本航海をサポートしてくださった皆さま、本当にありがとうございました。上野洋路(北極航海主席研究者)
帰港式を終え、出迎えの友人、家族、同僚と談笑する乗船者(2023年8月1日、撮影:上野洋路)
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【英語簡易版】LASBOSとは?