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えっ!海が凍る?
水たまりや池が凍ることは,真冬であれば,よくある。北海道のオホーツク海沿岸では,流氷が押し寄せる光景を目にすることができる。この流氷は,オホーツク海北部のロシア沿岸で海水が凍りはじめ,その分布が広がり,北海道まで到達したものである。
世界気象機関がまとめた海氷用語集によると,「海氷」は,「海の水」が凍ることによって出来たすべての氷と定義されている。世界中で,最も低緯度で海氷を見られるのは北海道のオホーツク海沿岸であることをご存じだろうか(私は大学院生になるまで知らなかった。恥ずかしながら,海が凍ることも知らなかった)。北半球の冬,シベリアで急激に冷やされた空気が季節風となってオホーツク海沿岸に吹き付ける。冷たい空気が海表面から熱を奪い,海水は冷やされ,マイナス1.8 度になると凍る(この点を結氷点という)。南極では,空気が猛烈に冷やされるため,外洋の海盆域でも,表面から深度数百メートルまで海水が結氷点近くに冷やされて,表面から凍りはじめる。北極海の海盆域では,大西洋由来の高塩分・高水温(プラス1 度くらい)の高密度水が深層に横たわっているので,表層水だけが結氷点まで下がり,海氷ができる。
北極や南極より低緯度で海水が凍るには,海が浅いことと,マイナス20 度くらいの冷たい空気が連続的に吹き付けることが必要である。この条件が満たされる場所がオホーツク海北部のロシア沿岸なのである。ロシア沿岸から遠く離れた北海道のオホーツク海沿岸まで海氷が広がり,「最も低緯度で見られる海氷」として,美しい光景を楽しませてくれるのだ。海氷に埋め尽くされた海は白一色となり,あたかも陸のようだ。嘘か真か,北海道オホーツク海沿岸の街では,昔,東京から来た人に凍った海を見せ,「この土地を買わない?」と売ろうとしたという話もたくさんあるほどだ。オホーツク海の流氷は,漁船の航行を困難にする厄介者ではあるが,氷とともに栄養やプランクトンが運ばれることによって海に恵みをもたらしたり,冬場の砕氷観光船による海氷クルーズなど貴重な観光資源にもなったり,いいことづくしである。