토픽 개요
コラーゲン原線維 ー組織工学の材料開発ー
コラーゲン分子はタンパク質の一種です。アミノ酸がペプチド結合した鎖が3本,らせん状により集まってできています。直径が1.5 nm、長さが 300 nm の紐状になっています。
コラーゲン原線維が束状にまとまって太い線維状になったものをコラーゲン線維束と呼びます。コラーゲン原線維や線維束は私たちの体内の様々な組織,器官に分布し,組織や器官を三次元的に支えています。ちょうど鉄筋コンクリートビルの鉄筋の役目を果たしているのです。コラーゲン原線維や線維束の間を満たしているのがプロテオグリカンです。鉄筋コンクリートでいえばコンクリートに当たる部分です。プロテオグリカンはコアタンパク質に多数の糖鎖が結合しており,高い保水性を持っています。コラーゲンやプロテオグリカンの複合体は細胞外マトリクスと呼ばれ,細胞の足場となったり,細胞への情報伝達物質を貯蔵してその活性を調節したりして,生命維持において重要な役割を果たしています。
バイオテクノロジーで培養細胞を用いて人工組織を作る場合も、人工的に作った足場(コラーゲンなど)が欠かせません。細胞は足場と結合すると,足場から様々な情報を獲得して増殖したり,各組織へ分化します。より適した足場であれば,意図したように細胞を増殖させたり分化させたりすることができます。
いっぽう,足場が悪いと,細胞が自ら死滅(アポトーシス)してしまいます。どのような足場がよいかは,作りたい組織によって異なります。私たちの体の中の組織にみられる細胞外マトリクスの構造が組織ごとに異なるように,作りたい組織ごとにオーダーメードで足場を開発する必要があります。
生き物の組織は3次元構造なので、平面の足場では組織をかたち作ることができません。3次元構造の足場を各組織ごとにオーダーメイドする必要があります。それに適した足場材料を探さなくてはなりません。
チョウザメコラーゲンを用いた組織工学と再生医療
組織工学では,幹細胞,3次元の細胞足場材料,サイトカインを組み合わせ,人工的な組織をつくります。たとえば,骨疾患の再生医療の場合,患者から採取された幹細胞に適切な3次元構造を持った足場(コラーゲン)と分化誘導因子を加えて幹細胞を増殖させ,そのあと骨芽細胞や軟骨細胞に分化させます。治療に必要な大きさに人工骨組織が成長したら,患者の疾患部位に移植します。
私たちの研究室では,チョウザメのコラーゲンを組織工学用の細胞足場材料に応用する研究を進めています。
魚コラーゲンの人工足場は多くの利点
- 線維形成能が高く材料合成に適する
- 線維化した材料は細胞との親和性が高い
→ 幹細胞が足場によく接着する,移植後は周りの組織と融合しやすい
- 人獣共通感染症の心配がない
(ヨーロッパでは、全て魚コラーゲンに切り替え済み)
コラーゲンは4つの形で利用される
3. Gelatin (ゼラチン):ペプチド結合高分子
加熱して分子がほどけたもの。
食品のゲル化剤に使われるほか,細胞培養にも用いられる。
生物工学の素材として利用されるコラーゲン
コラーゲンの形状で製造方法と製造コストが異なるため,値段も異なります。最も値段が高いのは分子と,分子から構成される原線維です。細胞培養用に高度に精製されたコラーゲン分子は,1グラムで15万円ほどの価値があります。チョウザメ(2キロ)から浮袋なら4グラム以上のコラーゲンがとれます。値段にすれば 60万円以上の価値になります。これは,メス1尾(20キロ)からとれるキャビアとほぼ同じ価値です。
(キャビアの値段は品質によりさまざまですが,中程度の品質である1グラム300円で計算)。
チョウザメの加工副生物からは大量のコラーゲンがとれる
Zhang et al., 2014, Food Chemistry
皮と浮袋 からは多量のコラーゲンがとれるため,産業化が可能です。
脊索からはⅡ型コラーゲンがとれます。Ⅱ型コラーゲンは軟骨など特殊な組織に含まれるコラーゲンで,市場流通量が少ない貴重なコラーゲンです。脊索は古代魚チョウザメならではの組織で,チョウザメ以外の動物では退化してしまいます。
チョウザメ浮袋からⅠ型コラーゲンを抽出する
動物の各部位からコラーゲン分子を抽出します。医療用のコラーゲン材料として利用するには,不純物が含まれないように十分に精製することが大事です。 細胞培養の足場に利用するには,精製したコラーゲン分子を原線維に戻す必要があります。このためには,規則正しい原線維(細胞の増殖や分化を効率的に引き起こすことができる原線維)を作り出す条件を定める必要があります。このような要求を満たした上で,処理を効率化し工業製品として世に出すことをめざしています。
チョウザメ浮袋コラーゲンから原線維を作る
チョウザメの浮袋からとれるコラーゲンは,哺乳類のコラーゲンとは異なる特殊な性状を示します。抽出したコラーゲン分子は酸性溶液によく溶けます(左)が,緩衝液を用いて中和すると原線維を形成し,白く濁ります(右)。
白濁する様子を分光光度計で測定しグラフです。ブタのコラーゲン(紫の線)に比べると,浮袋コラーゲン(赤い線)の方がすばやく白濁する(=原線維形成が進行する)ことがわかります。
Zhang et al., 2014, Food Chemistry
こうして作った原線維の走査型電子顕微写真です。様々な太さの線維ができていることがわかります。ブタのコラーゲンではずっと細い原線維しか作れません。 コラーゲン原線維を細胞足場に利用する場合,すばやく,様々な形態の線維を作れることには大きなメリットがあります。なぜなら,細胞は足場のコラーゲン原線維の太さや配向を読みとって様々に反応するからです。浮袋コラーゲン原線維の太さや配向を制御できれば,細胞の増殖や分化を制御できる可能性があります。
コラーゲン原線維コーティング技術の開発で独創的な研究が可能に
チョウザメ浮袋コラーゲン原線維を細胞培養皿にコーティングする技術を開発しました。
Bはコラーゲン分子,Cは細い原線維,Dは太い原線維をコーティングした培養皿の走査型電子顕微写真です。
E,H,Kはそれぞれで培養したマウス骨芽細胞前駆細胞の偏光光学顕微鏡写真です。それぞれで特徴的な細胞の形態を示すこと,特にKでは細胞が原線維の走行方向(Kの矢印)に沿って一方向に伸展していることがわかります。図には示しませんが,細胞の増殖や分化もコーティングの種類によって大きく異なりました。ブタコラーゲンではこのようなコーティングはおこなえません。この技術により,コラーゲンに対する細胞の反応を詳細に調べるなど,独創的な研究を展開することが可能になりました。
今後はこの技術をさらに発展させて,3次元の立体的な細胞足場材料の合成に挑みます。
研究成果の発表
皆さん,最後まで読んでくれてありがとうございます。
ところで,今回紹介した研究の参考文献「Zhang et al., 2014, Food Chemistry」とか「Moroi et al., 2019, Materials Science and Engineering: C」 とかに気づきましたか? これは学術雑誌に掲載された学術論文から図を引用したことを示しています。Zhang さんや諸井くんは,研究室の卒業生です。紹介した研究成果は,彼らが大学院修士課程に在籍中に研究して得た成果の一部です。
皆さんがもし理系の学生なら,4年生になると卒業研究を,大学院に進学すれば修士論文研究や博士論文研究をおこなうことになるでしょう。皆さんが研究をおこなった成果も学術論文に掲載される可能性があります。
大学の研究室で皆さんがおこなう研究は,科学の発展に貢献し、人類共通の財産になります。また,直接商品開発に利用され利益をもたらすこともあります。
研究を楽しんで,よい成果を出してくださいね。