紅藻ウップルイノリ・タンパク質に含まれる新規機能性ペプチドの同定
Ringkasan topik
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当研究室では、“低利用資源・紅藻中の健康機能成分の探索”として紅藻に含まれる成分の研究を行っております。その中でも紅藻類・タンパク質由来ペプチドはアンジオテンシンI変換酵素 (ACE) 阻害作用を有する、高血圧予防のための降圧剤として注目され、最も盛んに研究が行われています。
ウップルイノリは海苔製品の原料となる紅藻です。岩海苔とも呼ばれ、香りがとても良いことで知られています。そのような海苔製品にも機能性ペプチドが含まれているのか調べました。 -
ウップルイノリのタンパク質は、他の紅藻と同様に、海苔粉末から水で抽出し、透析によって塩類などの低分子成分を除いたものとしています(調製法リンク)。ウップルイノリ・タンパク質由来のペプチドはプロテアーゼであるサーモリシンを用いました。
図1(A)はポリアクリルアミド電気泳動(SDS-PAGE)の結果です。レーン2はタンパク質のバンドが見えます。レーン3はタンパク質をプロテアーゼで加水分解したものでバンドが無くなっています。レーン4と5は蛍光検出したものです。タンパク質のレーンではフィコビリタンパク質の蛍光がありますが、加水分解物では泳動先端である下に蛍光があります。
図1(B)はACE阻害活性を調べたものです。タンパク質にもACE阻害活性がありますが、その加水分解物(Hydrolysates)にしたものでは阻害活性が大きく上昇することが分かりました。
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加水分解物にはたくさんのペプチドが含まれています。そのうち、どのペプチドにACE阻害活性があるのかを調べるため、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で加水分解物を分離しました。
図2(A)はHPLCで分離した結果です。図中にある番号のピークを集めてそれらのACE阻害活性を調べました。図2(B)は各フラクションのACE阻害活性です。活性の強さがフラクションごとに異なるのが分かります。そこで、各フラクションにどのようなペプチドが含まれるのかを質量分析計で調べました。
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質量分析計からペプチドの配列を予測することができます(リンク先のTable1から結果を見ることができます)。それにより42個のペプチドを見つけることができました。また図1(A)で示すように、主要なタンパク質はフィコビリタンパク質です。それらにペプチド配列が含まれているかを調べるために、次世代シーケンサーやポリメラーゼ連鎖反応法(PCR)でタンパク質の配列を調べました。表1はウップルイノリのフィコビリタンパク質の成分であるフィコエリスリン(LC599086)、フィコシアニン(LC599087)、アロフィコシアニン(LC599088)の配列を他の紅藻類と比較しました。
その結果、海苔類(Pyropia pulchra, Porphyra purpurea, Pyropia yezoensis)のものと高い同一性を示し、ダルス(Palmaria palmata in Japan)やムカデノリ(Grateloupia asiatica)とはやや低い同一性でした。
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42個のペプチドのうち、フィコビリタンパク質の配列から生じる機能未知の3つのペプチド(ARY, YLR, LRM)を合成して、それらのACE阻害活性を調べました。
その結果、ペプチドLRMが酵素と最も強く結合することが分かりましたIC50値 (0.15 μmol)。ペプチドLRMはフィコシアニンのα鎖に保存されている配列です。そこで、ペプチドLRMがACEの活性をどのように阻害しているかドッキングシミュレーションによって調べました。
図3(A)はペプチドがACEに結合しているところを示しています。図中の丸が亜鉛イオンで酵素の活性に関与します。紫色で示したペプチドLRMは亜鉛イオンと血圧上昇に関する基質アンジオテンシンIの結合を阻害する位置に結合することで活性を抑制することが示されました。図3(B)は二次元でペプチドLRMとACEの結合を示したものです。
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•紅藻由来の新規ぺプチドの探索
•ACE以外の健康に関わる機能性ペプチドの探索 -