Garis besar topik

    •  コンブなど大型褐藻類は、秋から生長を始め、冬に栄養を沢山吸収して大きくなります。春以降、植物プランクトンが大増殖して、表層海水中の栄養を使い尽くしてしまいます。栄養塩吸収の競争で、春以降、褐藻類は植物プランクトンに負けてしまうことが想像されます。しかし、褐藻類は、冬場に貯め込んだ栄養を使って、春から夏にかけても体を大きくしてゆきます。夏になると、海水温が上昇することもあり、コンブの生長よりも、コンブ先端からの脱落(枯れ)が勝り、小さくなってゆきます。なぜ、褐藻類が冬場に大きく生長でき、植物プランクトンが春に大増殖するのでしょうか。この違いが、栄養塩競合を考える上で大事なポイントになります。まず、植物プランクトンが春に大増殖する理由を説明します。

    •  植物プランクトンは、海流に乗って流されているので、自ら海岸付に留まることはできません。面積的には、外洋域の方が大きいので、外洋域での植物プランクトンの生長について考えます。冬場は、海面が冷やされることで海水が鉛直的に混合し、海の深い所に貯まっていた栄養が表層までもたらされます。植物プランクトンも海水と一緒に、鉛直的に大きく移動させられています。冬場の表層海水は栄養豊富なのですが、鉛直的によく混ざっているので、暗い深い所へ植物プランクトンが運ばれてしまうこともあります。冬場の表層にいる植物プランクトンにとっては、平均的に光環境が悪い状態にあり、大増殖ができません。春になると、日差しが強くなり、海洋表面が暖められ始めます。すると、表層海水の鉛直的な混ざりが弱まると、表層の植物プランクトンが暗い深い方へ運ばれることはなくなり、植物プランクトンにとって光環境が改善します。冬場にもたらされた豊富な栄養と、光環境が改善することが相まって、植物プランクトンが大増殖するのです(絵4)。(より定量的な説明は、春の植物プランクトンの大増殖のコースを参照


      絵4 冬場(2月)の鉛直混合と表層の光環境、春先(4月)の光環境の改善と植物プランクトンの大増殖

    •  なぜ、コンブは冬場から大きく成長できるのでしょうか。それは、海岸付近の岩に付着しているコンブは、冬場でも光環境が良好な状態にあり、海岸付近にも栄養豊富な海水が流れてくるからです。ちなみに、寒冷性の褐藻類や植物プランクトン(珪藻類)は、数℃しかない冷たい水でも元気に育ちます。一般的に、年間で海水温度が最も低いのは春先の3月下旬です。褐藻類と植物プランクトンは、その時期でも栄養豊富で光環境が良ければ、大きく生長できるのです。


      絵5 冬場に豊富な栄養を利用して海岸付近の褐藻類が大きく生長(褐藻類に消費される栄養を黒字で表した)

    •  コンブと植物プランクトンが大きく生長する時期の違いが、ブルーカーボンを評価するうえで、何を意味するのでしょうか。先のトピックにて、コンブなど褐藻類由来の有機物が炭素成分と栄養成分を含んだまま表層から隔離されると、表層海水の栄養成分を減らしてしまい、別の場所の海洋基礎生産を減らしてしまう可能性について述べました。仮に、冬場には、深層から有り余るほどの栄養が供給されており、どれだけコンブが栄養を吸収しても、春先(植物プランクトンが大増殖するタイミング)の表層海水中の栄養成分の量に影響しないのであれば、春先の海洋基礎生産を減らしてしまう心配は無用となります。そのような都合の良いことがあるのでしょうか? 今後の研究で調べるべきことですが、以下のような期待を持っています。

    •  亜寒帯海域の冬場は、海面が冷やされて鉛直混合が水深150 mくらいまで達するので、表面0 m~150 mまで栄養豊富な状態になります。その水の栄養が海岸付近で褐藻類に消費されますが、その水が再び外洋へ流されて鉛直混合すれば、栄養が再供給されます。褐藻類に消費された分は戻りませんが、春になって表層で植物プランクトンが利用する分に与える影響は小さいかもしれません。褐藻類により消費されたマイナス分の栄養は、0 m~150 mに影響が及びますが、元々、植物プランクトンは50 m~150 mの栄養は利用できないから、その影響は限定的になる可能性があるからです(絵6)。(混合についての考え方は、海洋表層の鉛直混合と成層化のLASBOSコースを参照


      絵6 冬場に褐藻類が消費した栄養の影響が、春先の植物プランクトンの大増殖に与える影響有無のイメージ


       本コースで紹介した栄養循環は、私(大木)のイメージにすぎません。実際に調べて検証する必要があります。海洋表層の混合状態が季節的に変わること、コンブや植物プランクトンが大きく生長・栄養を消費する時期が違うこと、これらを考慮して、ブルーカーボンを評価する必要があるのです。海洋物理学・化学・生物学の研究者が集まって対応する必要がありそうです。(仲間募集中!)