その結果、3種のSNARE複合体構成分子は、ほ乳類の対応する分子とほぼ同様の一次構造(塩基配列)を有しており、アイソフォームの存在も判明しました。刷込期の降海幼稚魚では、嗅細胞数の増加に伴う嗅球糸球体でのシナプス増加を反映して嗅房での各SNARE遺伝子発現が増加し、嗅球でも発現増加が認められました。一方、想起する遡上親魚では、嗅房や嗅球ではすでにシナプス形成を伴う記憶形成は終わっていることから、各SNARE遺伝子の発現レベルは低いが、嗅覚の高次中枢でもある終脳ではSNAP- 25bやSTX-1遺伝子が増加しており、想起にも機能している可能性が示されました。
今後は、より詳細な発現動態(細胞レベルの発現解析を含む)や関連する他分子も分析することにより、刷込や想起に関わる重要な時期や脳部位を明らかにすることが必要となってきます。サケ類の嗅覚刷込機構の解明は、河川に人工ふ化させた稚魚を放流して資源を維持している本種では、「放流適期」を考える上で、サケ類の体内(特に神経系)の状態からそのタイミングを決定するための重要な情報となると考えています。