地球の酸素の存在場所と移動量
気候変動は「炭素循環の歴史」と説明しました。それに対比させるなら、生命進化は「酸素循環の歴史」といえるでしょう。
【地球の酸素】
酸素と炭素の大きな違いは、地球における存在比です。地球を構成する元素のうち、鉄(32%)に次ぐのが酸素(30%)です。酸素のほとんどが、地殻中やマントルにSiO2やMgOとして存在します(Morgan, PNAS, 1980)。ちなみに、鉄の多くは核に存在し、地殻やマントルにも酸化鉄として存在します。
ケイ酸塩鉱物(もしくは、SiO2を主組成とする鉱物)の沸点は2000度を超えるので、惑星衝突でも構成元素がバラバラにならない部分もあるでしょう。地球誕生時からケイ酸塩鉱物として存在したのです。次に多いのが、岩石の一つではありますが、海の作用を受けて、大気中の二酸化炭素が固定された炭酸塩岩(CaCO3)です。炭酸カルシウムは熱をかけると分解するので、地球初期には存在しえません。次いで、海水の水です。ここまでは、ほとんど生物の影響は関係ないでしょう。(炭酸塩岩の一部は生物による固定です)
Garrels, et al., Controls of Atmospheric O2 and CO2: Past, Present, and Future, American Scientist, 64, 306-315 (1976)よりデータを引用しました。
【生命進化と生物由来の酸素化合物の蓄積:SO42-とO2】岩石と水に含まれる酸素に次いで多いのが、海水中に溶けている硫酸イオン(SO42-)です。これはどのようにできたのでしょうか? 少なくとも35億年くらいまでは、海水中のSO42-は極めて少なかったと考えられます。地球内部からでてくる硫黄は還元的なH2Sでしょう。生命初期の光合成細菌は、二酸化炭素を還元するのにH2Sを使ったと考えられています。そのとき、SO42-が排出されます。(ストロマトライトの縞模様をつくるCaSO4が見つかっています) 海水中に硫酸イオンが染み出しても、速やかに硫酸還元菌に消費されたでしょう。(ここまで、酒井, 自然界の硫黄-酸化状態はどう決まるのか?, 化学と教育46,(1998)を参考にしました)硫黄酸化細菌たちが何億年もかけて、硫酸イオンを海水に蓄積させたたと思われます。酸素発生型の光合成細菌が生まれて、海に硫酸イオンが蓄積するのを助けます。海水に酸素が蓄積し始めたのが25億年前ですね。20億年くらい前から大気にも酸素が蓄積され、顕生代に入って陸上植物が光合成をするようになり現在の大気の酸素レベルに達しました。その結果が、上の図の酸素量です。海水にはあまり酸素が溶けないので、大気の1/100くらいの酸素しか海洋にはありません。
【生命圏を行き来する酸素の量】
現在、生物が呼吸と光合成により酸素を移動させる量は、(光合成と呼吸それぞれ同量で)年間2.5×1015 molだけです。1年間で、大気と海洋の酸素の全量の1/15200だけが生物活動に使われています。陸上と海水中の光合成量は、同じくらいとされています。生物による酸素移動量を、陸と海で単純に二分すると、海洋内での生物による移動量は年間 1.25×1015 mol になります。海水には元々酸素が2.7×1017 mol しか存在しません。大気から隔離された深層海水中では、長い年月を経れば、生物による酸素消費の影響がみられます。また、光が届く亜表層でも酸素発生の影響が局所的にみられることがあります。海洋化学や生物学では、そのシグナルを拾って、海洋生態の様子を読み解くことに利用しているのです。
最終更新日時: 2020年 06月 1日(月曜日) 05:27