下に、炭素循環モデルにより、炭酸カルシウム粒子のうちカルサイト(上図)とアラゴナイト(下図)が飽和となる深度(Ca2+】×【CO32-/ Ksp  =  1)を示します。この深度より浅いと、未飽和なので、炭酸カルシウム粒子は溶解しません。北大西洋では、カルサイトは4500m以深で未飽和(溶解する)になっていて、水深4000mくらいまでの深層水では溶解しないことがわかります。北太平洋では、カルサイトは500m以深で未飽和(溶解する)になっています。



引用情報

 上図:Figure 1 of  A. Yool, E. E. Popova, and T. R. Anderson, Geosci. Model Dev. Discuss., 6, 1259–1365, 2013., www.geosci-model-dev-discuss.net/6/1259/2013/ doi:10.5194/gmdd-6-1259-2013,  © Author(s) 2013. CC Attribution 3.0 License.

下図:Figure 1 of  R. Gangstø, M. Gehlen1, B. Schneider, L. Bopp, O. Aumont, and F. Joos, Biogeosciences, 5, 1057–1072, 2008,  www.biogeosciences.net/5/1057/2008/, © Author(s) 2008. , This figure is distributed under the Creative Commons Attribution 3.0 License.


大まかな特徴

 上図で示しているように、炭酸カルシウムの結晶構造(カルサイトやアラゴナイト)によってもKspの値が異なることがわかります。より頑丈なカルサイト(円石藻や有孔虫の殻)は、北大西洋の底層水では溶解せず、南大西洋底層水から未飽和エリアが広がることが知られています。カルサイトについては、南大西洋の底層水(4000m以深)、南太平洋の深層水(3500m以深)、北太平洋の中層水(800m以深)で溶解します。

 アラゴナイト(翼足類やサンゴの骨格)であれば、北大西洋深層水でも溶解します。北大西洋深層から南大西洋深層に至るまでにアルカリ度の上昇があるのは、アラゴナイトの溶解によるものが理由の一つです。大西洋には中央海嶺があり、それに沿ってカルサイト飽和深度が浅くなっています。比較的浅い海底面に到達する有機物粒子が多く、堆積物中での有機物分解によりpHが下がり、炭酸カルシウム粒子の溶解が進むことが理由と考えられます(この解釈については、推定をj含むので、より確かな情報を得たら、内容を更新します)。

 さらに、北太平洋の出口にあたる、ベーリング海北部の陸棚上(水深200mくらい)や北極のチャクチ海陸棚上(水深100m以浅)では、表層水でもアラゴナイト未飽和になっています。元々アラゴナイトが溶解しうる陸棚海域では、大気中二酸化炭素が増えることや淡水流入量が増えることにより、アラゴナイトを殻に持つ翼足類(遊泳性巻貝)の生存が危ぶまれる事態になりかねません。このような、北極域における“海洋酸性化”の影響も近年注目されています。

 

※ 人為起源二酸化炭素の増加により、海水のpHが低下して、CO32-濃度が下がる。また、人為起源二酸化炭素の増加により温暖化が進むと、高緯度域では淡水流入(氷河や海氷融解)が増えることも推測されます。淡水比率が高くなれば、Ca2+CO32-の濃度が下がります。このような影響のダブルパンチでアラゴナイト殻の溶解が促進されると考えられています。




最後修改: 2020年 06月 26日(週五) 08:26