MTD水平ネット
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海産動物プランクトンを対象として、任意の水深におけるプランクトンを水平曳きで採集することの出来る閉鎖式ネット。船舶から伸ばす1本のワイヤーに多数のネットを連装した後に、船をゆっくり航走させて、ワイヤー角度を45度に保つことにより、連装された多数のネットが所定の水深を水平同時多層曳きされる(図1)。メッセンジャー(ワイヤーを伝って落ちる重り)をワイヤーを通して落下投入することで、MTDネットの三角枠とネットリングが分離し、三角枠とネットリングを繋ぐ、ネット中央部の外側を巻くワイヤーが絞られることによりネットは閉鎖し、それまでに採集されたプランクトンを逃すこと無く、確実に捕集できる構造になっている。電気信号を介すること無く、メカニカルな機構による1本のワイヤーに因ることだけで、海洋における動物プランクトンの層別試料を、同時に多層から採集することができる点が特徴。
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網口面積 (Mouse Area): 0.25 m2
リング直径 (Mouth Diameter):56 cm
目合 (Mesh size): 335 µm (NMG52) -
MTDネットとは正式名称を、MTD水平ネット(Motoda Horizontal Net)と言い、北海道大学水産学部浮游生物学(ふゆうせいぶつがく)講座初代教授の、元田 茂(もとだしげる)先生が1971年に開発した、浮游生物(プランクトン)の深度分布(鉛直分布:えんちょくぶんぷ)を評価できる、プランクトンネットです。プランクトンの採集には、その研究の最初から、捕虫網のような「プランクトンネット」が使用されていました。初期のプランクトンネットは、重りの上に上向きのプランクトンネットを付けて、所定の水深まで下ろした後に巻き上げることにより採集するものでした。ただこのやり方では、水中内におけるプランクトンの鉛直分布を明らかにすることは出来ませんでした。そのため、プランクトンの鉛直分布を明らかにするために、様々な仕組みのプランクトンネットが作られました。MTDネットは日本を代表する層別プランクトンの採集器具で、21世紀の現在でも市販されています。MTDネットの最終形が発表されたのは1971年ですが、そのアイディア(水平同時多層曳き)の萌芽は、1950年代の元田先生のメモに見ることが出来ます(図2)。その後の20年近くは、そのアイディアを具現化するために、様々な試行錯誤を繰り返し、テストを行ってきた年月と考えることも出来ます。元田先生はその他にも様々なプランクトン採集器具、分析機器を開発・発表された、日本のプランクトン研究の草創期を支えた研究者です。元田先生が発表されたプランクトン採集器具、分析機器のうち、これまで商品化されて市販されているものは多数あります(図3)。このうち特に液浸のプランクトン試料を半分に分ける、元田式分割器は「Motoda plankton splitter」として、現在、世界中で広く使用されています。元田先生が初代教授を務められた北海道大学水産学部浮游生物学講座は、「浮游生物」の名前を冠した、日本で初めての大学研究室です。その伝統は、現在の北海道大学大学院水産科学研究院海洋生物学分野(浮游生物学領域)に受け継がれています。
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元田 茂(もとだ しげる)先生は北海道大学農学部水産学科浮游生物学研究室(札幌)および北海道大学水産学部浮游生物学講座(昭和25年函館に設置)において多くの学生の教育を行い、1952年に日本プランクトン研究連絡会(現在の日本プランクトン学会)を設立、初代会長を務めるなど、我国のプランクトン研究の発展に大きく貢献しました(図4)。昭和46年(1971年)に北海道大学を退官の後は、東海大学海洋学部にて教鞭を執り、平成7年に腎不全のため逝去しました。元田先生は卓抜したアイディアと画才センスを持ち、プランクトン研究に関する器具を多数開発しました(図5)。元田先生が開発した機器の真骨頂は、単純な機械ですが、確実な動作をする機器にあり、現在のプランクトン研究においても様々に使用されています。
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山口 篤(やまぐちあつし)
北海道大学大学院水産科学研究院
海洋生物学分野 浮游生物学領域