陸奥湾のイカナゴ属(Ammodytes sp.)の生活史
海洋生物資源科学部門・資源生物学分野・高津研究室の紹介です
イカナゴ属は日本列島周辺に3種生息します。
1. イカナゴ Ammodytes japonicus
瀬戸内海・伊勢湾・若狭湾・陸奥湾・三陸沿岸・北海道周辺に生息
2. オオイカナゴ Ammodytes heian
陸奥湾・三陸沿岸・北海道周辺に生息
3. キタイカナゴ Ammodytes hexapterus
北海道周辺のうち,石狩湾・稚内周辺に生息(陸奥湾には生息しない)
1と2は,2015年以前は「イカナゴ Ammodytes personatus」と表記されていましたが,DNA解析の結果,2種が混じっていたことがわかりました。DNA解析でのみ区別できます
キタイカナゴと1-2の区別は,産卵期や背鰭軟条数でおおよそは区別できますが,実際には外見からの区別はほとんど無理です。本種もDNA解析が望ましいです。
2015年以降,A. personatusはベーリング海からカリフォルニア沖の太平洋沿岸に生息し,日本周辺には生息しないことになりました(Orr et al., 2015)。
シワイカナゴ Hypoptychus dybowskii という紛らわしい名前の魚がいますが,この種はトゲウオ亜目Gasterosteoideiの仲間です。
一般的に、
イカナゴ属の小型仔魚、大型仔魚、稚魚の区別です。
イカナゴ属の1種は2~5歳で成熟し,毎年雌1尾当たり2.2~6.6万個産卵します。これらの卵のうち,雄1尾と雌1尾の合計2尾が漁獲をかいくぐり,自然死亡もなく,成魚になって産卵に参加すれば,イカナゴ資源は維持できるはずです。
産卵数から計算するとその生残率は0.0031~0.0089%であり,宝くじに大当たりするくらい低い確率です。
小型で脆弱な卵や仔魚・稚魚の時期は,未成魚期や成魚期に比べて生残率が低いです。これを「初期減耗」といいます。また,わずかな環境要因の変化が,初期減耗に大きな影響を及ぼします。初期減耗が生じる原因には様々な説があります。例えば,
飢餓仮説:小型仔魚は遊泳速度が低いために,餌密度が低いとお腹を空かせて死亡することがあります。
輸送仮説:小型仔魚は遊泳能力が乏しいプランクトン生活者なので,ネクトンのように生活しやすい水温層や生育場に泳ぎ着くことができません。異常海流で生残できないような外洋に流されてしまうと,生残率が下がります。
水温仮説:急激な水温低下や高水温化が生じると,逃げ切れずに大量死が起こります。
一日あたり1%の生残率の違いが、1年後には40倍もの違いに広がります。
種苗放流や完全養殖をすればよいのでしょうか?
Path(パス)解析の結果(図3)
結果1:念のため小型仔魚(上段)と大型仔魚(下段)に分けて解析しました。矢印の横や下の数字は,パス係数β(方向のある相関係数のようなもの)で,正の値で正の相関,負の値で負の相関があると考えてください。
①水深5mと35mの海水密度の差が小さいと(つまり陸奥湾の表層に陸水流入量が少ないと),
②冬季の鉛直混合が促進されて,
③餌生物が増え,
④餌を多く食べ,
⑤体長6mmと10mm時点で栄養を蓄えて太っている
これらが統計的に証明出来ました。
ただし低水温だと、
⑥消化速度が低下して,
⑦見かけ上摂餌量がアップしてエネルギー取り込み量はむしろ低下しますが,
③の効果(β=0.75と0.66の絶対値)>⑥の効果(β=−0.45と−0.56の絶対値)なので,
陸奥湾の水温環境は⑤肥満度を低下させるほど強い効果ではないことが統計的に証明出来ました(0.60倍(=0.45÷0.75)から0.85倍(=0.56÷0.66)の効果と計算できます)。
前年秋期に陸奥湾の表層に陸水流入量が少ないと,冬季の鉛直混合が促進されて餌生物が増え,餌も多く食べることができ,体長6 mmと10 mm時点で栄養を蓄えて太る。
逆に,陸水流入が多いと,イカナゴが痩せる(栄養状態が悪い)。
一般公開されているデータを使って解析ができます。