Topic outline
概要
ヒスタミン産生菌は食品のヒスタミン食中毒に関与する細菌です。ヒスタミン産生菌の産生するヒスタミンが大量に食品に蓄積すると,その食品を食べた際にヒスタミン食中毒が発生する危険性があります。私たちは,ヒスタミン産生菌とその制御方法について研究することにより,より安全な水産物の加工処理・保存方法の提案を目指しています。
ヒスタミンによる食中毒
ヒスタミン食中毒は,食品中に大量に蓄積したヒスタミンを摂取することにより発生する食中毒です。ヒスタミンは,ヒスタミン産生菌の持つヒスチジン脱炭酸酵素によりヒスチジンから産生されます。そのため,ヒスタミン食中毒は遊離ヒスチジン含量の高い赤身魚(マグロ,カツオ,サバ,イワシ,サンマ等)の魚肉に多い食中毒です。ヒスタミン食中毒の症状は蕁麻疹や吐き気などのアレルギー様症状であり,日本ではアレルギー様食中毒と呼ばれてきました。ヒスタミンは加熱に安定であるため,一度ヒスタミンが蓄積してしまえば,加熱調理を経た食品においても食中毒が発生する可能性があります。
ヒスタミン産生菌
魚肉のヒスタミン食中毒に関与する主なヒスタミン産生菌には,腸内細菌の仲間のMorganella morganiiやM. psychrotolerans,海洋細菌でビブリオ科のPhotobacterium phosphoreum,P. damselaeなど複数の種が存在します。特に,M. psychrotoleransやP. phosphoreumは4°Cなどの低温下でも増殖しヒスタミンを産生するため重要なヒスタミン産生菌です。私たちは,最確数(MPN)法とポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を併用したMPN-PCR法により,水産物を汚染するM. psychrotoleransについて調べました。その結果, M. psychrotoleransが国内に流通する水産物を汚染していることを確認し,これらの水産物より分離したM. psychrotoleransが4°Cで高濃度のヒスタミンを産生することも明らかとしています(加藤ら,2017)。さらに,M. psychrotoleransのヒスチジン脱炭酸酵素遺伝子の発現が酸性環境下で上昇することや,菌体から抽出したヒスチジン脱炭酸酵素が様々なpHや温度環境下でヒスタミンを産生することを明らかとしました(Wang et al., 2020a)。これらの結果は,ヒスタミン食中毒を予防するために,低温管理を含めた水産物の衛生的な取り扱いが重要であることを再認識する結果となりました。
ヒスタミン産生菌の透過型電子顕微鏡観察 培地におけるヒスタミン産生の確認
ヒスタミン産生菌の制御
低温管理に加えて,水産物中のヒスタミン産生菌を殺菌することができれば,水産物の安全性がより高まると考えられます。そこで,私たちの研究室では,殺菌剤を利用したヒスタミン産生菌の殺菌(Wang et al., 2020b)や,バクテリオファージ(細菌に感染するウイルス)を利用したヒスタミン産生菌の制御(Yamaki et al., 2015; Yamaki et al., 2020)についても研究しています。
参考文献
加藤ら, 2017. 日本食品微生物学会雑誌, 34, 158–165 (DOI: https://doi.org/10.5803/jsfm.34.158).
Yamaki et al., 2015. Journal of Applied Microbiology, 118, 1541–1550 (DOI: https://doi.org/10.1111/jam.12809).
Yamaki et al., 2020. International Journal of Food Microbiology, 317, 108457 (DOI: https://doi.org/10.1016/j.ijfoodmicro.2019.108457).
山木・山﨑, 2019. 日本食品微生物学会雑誌, 36, 75–83 (DOI: https://doi.org/10.5803/jsfm.36.75).