セクションアウトライン

    • 北海道大学水産学部おしょろ丸海洋調査部 今井圭理、小熊健治、澤田光希

       

       海洋の水温と塩分は、最も重要な観測項目に位置づけられています。水温や塩分を計測することは、水塊の分布やその移動・混合の様子を捉え、海洋生物の生息環境を知るだけでなく、物質循環や気候システムにおける海洋の役割を理解するうえで必要不可欠です。

       正確な水温を知るには現場(海の中)で温度を測るしかありません。初期の海洋観測においては転倒温度計とよばれる特殊な水銀温度計が水温の測定に用いられました。これは、任意の水深で転倒させることによって水銀柱を切り、現場の水温を記録することができるもので、転倒機構をもった採水器と併用して使用されました(図1)。

       一方、塩分は採水器で採取した海水に含まれる塩素量を化学分析によって定量し、海水の主要成分の相対的比率は一定であるという「一定比率の原則」に基づいて塩素量から換算することで求められてきました。その後、塩分に応じて電気伝導度が変化することを利用し、電気的に塩分が計測されるようになります。


    • ナンセン採水器と転倒温度計

      1 転倒温度計による水温測定

      a)メッセンジャーと呼ばれる錘をワイヤに沿わせて落下させ、採水器のトリガ式固定具に当てる。b)トリガが作動すると上部の固定具が外れる。c)採水器と共に温度計が転倒する。d)転倒温度計の構造。計測時は水銀球部を下にした状態とする。温度計を転倒させると切断点で水銀球部と水銀柱とが切断され、転倒時の水銀柱の長さが保存される。船上に回収したら主温度計と副温度計の値を読み取る。通常の水銀棒状温度計である副温度計の指示値を用いて、周囲の温度の違いによる主温度計の指示値の変化を補正する。水圧の影響を受けない防圧式と水圧を受ける被圧式の指示値を比較することによって、転倒時の水圧(水深)を割り出すことができる。

    •  転倒温度計と採水器を用いた方法では海表面から観測最下層までのまばらな層の情報しか得ることができませんでした。近年、センサによる計測技術および観測に必要なウインチ・クレーンなどの機器類の発達によって連続的かつ高精度に水温・塩分の鉛直分布を計測することが可能となりました。これにより図2に示すように以前はなかった層のデータが取得され、より詳細な海水の動態を解明することが出来るようになりました。今日では電気伝導度、水温、深度センサを備えた水中測器はCTDConductivity-Temperature-Depth profiler)と呼ばれ、主要な海洋観測機器として広く利用されています


    • CTD採水システム

      2 転倒温度計およびCTD観測で得られる水温の鉛直分布図とCTD採水システム


    •  現在、CTD観測で主に使用されているCTDには同軸ケーブルで電源供給と信号伝送を行う「有線式」、バッテリによって作動して内部に計測値を記録する「自己記録式」、観測毎にセンサを使い捨ててしまう「投下式」と呼ばれる方式のものがあります。それぞれの特徴を図3に示します。有線式はリアルタイムで計測値を取得することができ、最も高い精度で計測できます。しかし、他と比べ大型で重量があることから観測作業は天候に左右されやすく、作業時間も長くなります。投下式CTDは精度が他よりも劣る分、悪天候の中でも観測が可能です。これらの特徴を生かし、観測の目的や航海の状況に応じて使い分けられます。



    • 図3 CTDの種類と特徴


    •  有線式のCTDは船上の受信器(船上局)とセンサ(水中局)とが同軸ケーブルで接続されているもので、船上でリアルタイムに計測値を監視できます。センサ単独で用いられることもありますが、多くの場合、採水装置と組み合わせた「CTD採水システム」として利用され、CTDの圧力センサの値を確認しながら正確に目的の深度の海水を採取することができます。また、センサによって得られた計測値と採取した海水の分析値を比較することで、センサ出力値の補正や、採水の不具合や分析ミスが無いかの確認ができます。

       CTD採水システムは、採水器の数や容量に応じてサイズが変わり、大型化するほど観測作業に要する人員が多くなるうえ、荒天時に安全に作業することが難しくなります。

      詳しくはこちら→ CTD採水システム



    • 図4 CTD採水システム


    •  自己記録式CTDの最大の特徴はバッテリを搭載することで独立した機器となり、取得された計測値を本体に記録することが出来るという点にあります。そのうえ、図5に示すように比較的小型・軽量なため、ある程度の荒天時でも少人数でオペレーションできる利点があります。また、この特徴を生かして係留系とよばれる海底設置型の観測システムに組み込むことで、長期間の観測に利用されることもあります。

      詳しくはこちら→ 自己記録式CTD

       



    • 5 自己記録式CTD


    •  投下式CTDXCTDeXpendable CTD)とも呼ばれ、航走する船の上から使い捨てのセンサ(プローブ)を海中に投下して水温・電気伝導度の計測を行います。停船させる必要が無いうえ、センサの回収に時間を要さないため、短時間で広範囲の観測が可能です。また、かなりの荒天でも観測することができます。

      詳しくはこちら→ XCTD

       



    • 6 XCTD観測模式図


  •  練習船 海洋学 海洋観測の手法