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【コラム】コチ科魚類の虹彩皮膜
- 多くのコチ科魚類は,瞳の上縁に虹彩皮膜(iris lappet)と呼ばれる膜状の突出物を持っている(図1)。種や属でほぼ決まった形をしており,コチ科魚類の分類形質として有効な場合がある。たとえば,トカゲゴチ(図1右下)やエンマゴチ(図2)などではよく発達し,多数に分枝している。しかし,瞳が覆われてしまい,視界は悪いはずである。なぜ,ものを見るのに都合の悪い虹彩皮膜が発達しているのだろうか。
図1 コチ科魚類6種の虹彩皮膜
図2 エンマゴチの水中写真(提供:Janet Eyre氏)
瞳のほとんどが虹彩皮膜に覆われている。視界は悪いに違いない。コチ科魚類は通常は腹ばいの状態で海底に潜んでいる。ほとんどの種では鰾を持たず,泳ぎは得意でない。そのため,餌を捕まえるには,追いかけまわすのではなく待ち伏せをする。一方,魚類には体に眼状斑と呼ばれる目玉模様を持った種が多く知られている。これは敵を威嚇したり,本物の眼と錯覚させたりする効果があるといわれている。つまり,眼は非常に気になる器官なのである。待ち伏せをする者にとって,自分がいることを相手に悟られては意味がない。そこでコチ科魚類は,瞳に虹彩皮膜というカムフラージュをかぶせ,目立つ眼を隠して自分がいることをごまかし,餌生物を油断させているのではないだろうか。
発達の程度や形は違うものの,コチ科魚類の他にも,アンコウやサツマカサゴなどの待ち伏せ型の魚類も虹彩皮膜を持っているため,私の「仮説」は決して的外れではないと自負している。