토픽 개요
魚類標本のつくりかた
学術標本の重要性をご理解いただけたところで,一般的な魚類標本の作成方法を簡単に説明しておきたい。魚を採集し,学術標本として収蔵庫に配架するまでにはたくさんのプロセスがある。
まずは魚を手に入れよう
魚の入手方法はさまざまである。最も簡単なのは近所のスーパーマーケットや鮮魚店で購入することだろう。日本の場合,流通網が発達していたり,活魚として運ばれてくることもあるので,正確な産地がわからないこともあるかもしれない。これまで東南アジアの国々で市場を回って標本を採集したことがあるが,小さな町の魚市場だと基本的にその日に近海で漁獲された魚が並べられている(図 3.8)。
図3.8 ベトナム・ニャチャン市の魚市場の風景。カサゴなどの近海の沿岸魚が並べられている。他にも,釣りやタモ網で採集するといった方法も個人レベルで実施できる。この場合は採集データを確実に残せる。釣りは最も手軽な手段の一つである。一度にたくさんの魚を採集することは難しいが,魚体を痛めることが少ない。陸上や船上から釣る以外にも,スキューバで潜水しながら採る方法もある。河川やタイドプールなどの浅海域ではタモ網を使うのもよいだろう。
個人では難しいが,刺網,地曳網,ドレッジ,オッタートロールなどの漁具による採集も効果的である。刺網は細長い帯状の網で,網地が一重だけのものや,二重にした二枚網,三重にした三枚網がある。魚が遊泳通過する場所をさえぎるように網を張り,網目に絡ませたりして捕獲する。表層に仕掛けて遊泳性の魚類を採集したり,底刺網では底生魚も採集できる。魚が網に絡まるので,網からはずす際に魚体を傷つけやすい。
地曳網は,船で沖合に網を下ろして大人数で網を引く大規模なものもあるが,長さ 10 メートル程度の網で人の腰くらいの水深帯から採集しても多くの魚が捕獲できる(図 3.9)。この場合は網の面積が小さいため,大型の遊泳性魚類の採集には向いていないが,遊泳性が低い魚類が集まる藻場などでは効果がある。
図3.9 北海道大学水産学部生の臨海実習での地曳網を使った魚類採集風景- ドレッジとは小型の底曳網の一種で,網口(あみくち)に金属の枠が取り付けられている。ドレッジを使うには船が必要となる。大きさはさまざまだが,サイズによってはウインチを使わずに人の力で扱うこともできる。うまくいくと,一度に多数の魚が採集できるが,底曳きのため遊泳性魚類の採集にはあまり向いていない。
オッタートロールは,オッターボードと呼ばれる,水圧を利用して網口を開かせるための拡網板を備えた大型の底曳網である(図 3.10)。一度に非常に多くの魚を採集することができ,最も効果的な方法の一つである。砂泥底に着底させて網を曳くので,主な漁獲対象は底生性魚類だが,揚網時に中層性・表層性の魚類も捕獲できる。
図3.10 北海道大学水産学部附属練習船「おしょろ丸5世」によるオッタートロールの操業風景すぐに処理できないときは冷凍保存
魚を採集し,すぐに標本処理を行うことができればよいが,場合によっては処理までにしばらく時間がかかってしまう場合がある。乗船調査では日中は調査で忙しく,標本処理の時間が確保できないこともある。その場合は冷凍して持ち帰ることになる。
冷凍するときはビニール袋に魚と水と採集データを書いた耐水紙(データがないと標本の価値は激減する)を入れ,水ごと凍らせるとよい(海産魚の場合は海水がよい)。長期間冷凍すると,魚だけでは「冷凍焼け」を起こし,鰭膜が固くなり,鰭を広げることができなくなってしまうし,柔軟性が損なわれて,鰭が折れやすくなるからである。ただし,水ごと凍らせても冷凍焼けを完全に止めることはできないため,冷凍後はできるだけ早めに解凍・標本処理することをお勧めする。
よく洗って,登録
採集した標本はよく洗浄し,ぬめりを落としておく。口のなかにもぬめりが入り込んでいる場合があり,そのままにしておくと歯の間に入ったぬめりがとれにくくなり,歯の観察が困難になる。種類や標本の状態によっては洗浄中に鱗が脱落したり,鰭膜を破いてしまうことがあるので,ていねいに取り扱う。
洗浄が終わったら,標本として登録を行う(洗浄前に登録すると,標本と標本番号を対応させるのが非常に面倒で効率が悪い)。国内外を問わず,多くの研究機関は「ロット方式」と呼ばれる登録方法を採用している。この方式では,同じ時・場所で採集された同じ種類に対して一つの標本番号を与える。そして,複数個体を一つのロットとして同じ標本瓶に入れて管理することになる。標本瓶には標本番号や採集データを印字した耐水紙も入れておく。
大型個体の場合は,同じ場所で採集された同じ種類であっても,それぞれに標本番号を与え,個別に管理するほうが効率的である。1 個体に一つの番号を与える場合は,標本番号を記入した布(タグという)を糸などで魚体に結わえる。ただし,魚体にタグがぶら下がっている写真はあまり格好のいいものではないので,タグを結わえるのは写真撮影の後,ホルマリン固定の前がよい。タグは口から左側の鰓孔に糸を通して結ぶが,口の形態が特殊で難しい場合は,尾柄部などの体に直接針を刺して結わえたりする(図 3.11)。
図3.11 北大のタグを結わえた固定前の標本。基本的に口から左側の鰓孔に糸を通してタグを結わえるが,左上のカワハギ類は口が細くて糸が通らないので,臀鰭の基底部に直接結わえている。北大では,赤色のタグは写真を撮影した個体を表している。- タグの布には,ほつれにくいキャラコ布が適している。これにナンバリングマシンを使って番号を打っていく(図 3.12)。インクはナンバリング用のメタルインキを使用する。番号だけでなく,北大の場合は HUMZ の略号も同時に打ちつける。インクが乾いたらコロジオンという薬品を塗る。コロジオンが乾くと布地が硬くなり,楽にはさみで切れるようになる。タグはロール状に巻いて保管し,必要に応じて切り離して使用する。
図3.12 ナンバリングマシンを使ったタグの作成風景標本に登録番号を与えたら,標本台帳に速やかに採集場所,採集日,水深,採集者,採集した調査船などのデータを記入する(図 3.13)。これらのデータは変更されることはないので,ボールペンなど消えない筆記具で記入する。和名と学名は同定してから書き込むが(これらは誤同定などにより変更される可能性があるので,鉛筆など消すことができる筆記具で記入する),すぐに同定できない場合はカサゴ類,コチ類などの暫定的な名称を一時的に書き込むこともある。その他にも写真や遺伝子サンプルの有無,標本が保管されているボトルの番号,他の特記事項なども台帳に記入する。
これらの標本情報をデータベースに登録すると,さまざまなデータから検索可能となり,標本の管理には非常に便利である。北大では標本台帳とデータベースの両方を使って標本を管理している。
図3.13 北大で使用している標本台帳。このデータはデータベースにも反映される。遺伝子解析用サンプル
必要に応じて遺伝子解析用のサンプルも採取する。近年では遺伝子を使った系統解析も積極的に行われているため,このようなサンプルはたいへん貴重であり,標本に付加価値を与えることができる。
北大では 5 ミリ角程度の肉片を採取することが多いが,左右に 1 つずつある胸鰭や腹鰭の片方をサンプルにしてもよい。いずれの場合でも,魚類分類学では標本の左側を観察するのが一般的なので,体の右側からサンプルをとる。採取したサンプルは小型のスクリュー瓶(瓶はガラス製で,パッキンの付いたプラスチック製のねじ式のフタがある容器)に無水エタノールを入れて保管する。北大では遺伝子解析用サンプルは低温の保管庫で管理している。
写真撮影のテクニック
魚類標本をホルマリン固定したりアルコールで保存すると,色彩はどんどん失われていく。色彩は重要な種の特徴となるので,色彩データを保存するためにカラー写真を撮影する。
しかし,そのまま魚体を撮影すると,各鰭は通常たたまれているので,鰭の色彩が記録できない。そのため,撮影する前に鰭を広げるひと手間をかける(魚類分類学者はこれを「鰭立て」と呼んでいる)。
まず,魚を発泡スチロール製の板の上に置き,頭の前部の上下,尾柄部の上下などに太めのピンを打ち,魚体を固定する。各鰭に適切な間隔で虫ピンを打ち,鰭を広げる(図 3.14)。虫ピンにはいろいろなサイズ・太さがあるので,適切なものを使用する。
鰭膜や鰭の基部に 100% ホルマリンを筆で塗り,鰭が固定されるまでそのまま待つ。ホルマリンには防腐作用の他,生物の細胞を固くする固定作用がある。気温や標本のサイズにもよるが,だいたい 5~15 分程度で鰭が固定される。この間,魚が乾燥しないよう,キッチンペーパーのような吸水性のよい紙で魚体を覆い,霧吹きで水をかけてやる。
図3.14 魚類標本の鰭立て風景大型個体やコチ類のように体幅があると,筆でホルマリンを塗っただけでは固定が不十分になるときがある。その場合は細長くよったティッシュペーパーなどを鰭の基部に置き,そこにホルマリンを塗ってやると,ホルマリンが流れ落ちずに長時間とどまり,十分な固定効果が得られる。
写真撮影をしない場合でも,鰭を広げておくと鰭条の計数や鰭の色彩の観察が行いやすくなる。図鑑の写真は鰭が広がっており,色彩や形がわかりやすく掲載されているが,このような手間をかけて撮影されているのである。
ホルマリンで固定
遺伝子サンプル採取と写真撮影が終わったら,次はホルマリンで魚を固定する。ホルマリンは 10% に希釈したものを用いる。内臓はとくに腐敗しやすいため,ホルマリンに浸す前に腹部(右側)を切開し,ホルマリンの浸透を早めてやる。
プラスチック製の衣装ケースやコンテナなどを固定槽として利用し,そのなかにホルマリンを入れてから,泳がせるように魚を入れてやる。多くの魚を入れた後にホルマリンを入れると,魚同士が密着してホルマリンが浸透せず,うまく固定できないことがある。
体が柔らかい種類の場合は,事前にホルマリン原液を筆で塗っておくと,固定槽のなかで魚体が曲がらず,まっすぐに固定できる。標本サイズにもよるが,おおむね 1 週間から 10 日程度で固定は完了する。
アルコールに置換
ホルマリンでも標本の保存は可能だが,長期にわたると骨がもろくなり(脱灰という),レントゲン写真(脊椎骨数などを数えるため,レントゲン写真を撮影することも魚類分類学ではごく一般的である。第 4 章の図 4.2 をご覧いただきたい)に写らなくなる。また,ホルマリンは劇物(劇薬と同程度の毒性を持つ医薬品以外の物質のこと)に指定されているほど毒性の強い物質であるため,ホルマリン液浸標本をそのまま観察することができない。
そこで,魚の固定が終わったら,できるだけ早い段階で流水に一昼夜浸してホルマリン抜きを行い,アルコールに置換してやる。アルコールは 70% エチルアルコールか,50% イソプロピルアルコールを使用するが,エチルアルコールのほうが標本にとってはより好ましく,世界の多くの博物館がこちらを使用している。
収蔵施設に配架・保管
アルコールに置換したら,標本のサイズにあわせて,1 リットル,2 リットル,20 リットルなどの標本瓶に入れ,博物館などの収蔵施設に配架・保管する。
北大水産学部がある函館キャンパスには総合博物館の分館である水産科学館があり(図 3.15),約 24 万点の魚類標本が管理・保管されている(図 3.16)。標本は北海道を中心とする日本はもちろん,世界各地から採集されており,北大の教員と学生の研究や教育の他,世界中の魚類分類学者に利用されている。これらの標本を用いて,これまでに 200 種以上の新種が発表されている。
図3.15 北大総合博物館分館水産科学館 生物標本館の外観
図3.16 生物標本館に収蔵される魚類標本(写真提供:田城文人博士)