刺胞動物は有性生殖と無性生殖の両方を行う特異な生活環を持っています。ミズクラゲの場合、成体(メデューサ)に精子と卵ができ有性生殖を行います。受精卵から発生したプラヌラ幼生はやがてポリプとなりますが、このポリプが分裂や出芽、ストロビレーションなど様々な様式で無性生殖(クローン増殖)を行い、個体数を爆発的に増やすことができます。ポリプはまた、飢餓に耐え、芽胞のようなものをつくって休眠したり、ムカゴのような細胞塊を放出して増殖することも知られています(1)。

ミズクラゲは雌雄異体であり、成体(メデューサ)が成熟するとオスの生殖巣(精巣)には精子、メスの生殖巣(卵巣)には卵がつくられます。精子は精巣から口腕を通って、口腕の先端付近から放出(放精)されますが、糸状または粥状の塊(精子塊)になっています。この精子塊を顕微鏡で観察すると、たくさんの精子が尾部で束ねられていたり、絡み合ったりして、ゆらゆらと揺れており、単独で元気に泳ぎ回る精子はなぜか観察されません(画像:ミズクラゲの精子)。受精は体内受精と考えられていて、メスはこの精子塊をおそらく口腕を介して胃腔に取り入れ、卵巣で受精が行われます。このような繁殖を効率的に行うためなのか、ミズクラゲは夏期に密集することがあります(画像:ミズクラゲの密集)。受精卵は発生途上でメスの体外に排出されますが、プラヌラ幼生となるまで口腕の付け根側にある保育嚢に保持されます。保育嚢の発達したメスは口腕の形態がオスと大きく異なるので、繁殖期の雌雄鑑別は容易です。
ミズクラゲのプラヌラは、長径約0.2mmの卵形で、全身に生えた繊毛を動かして回転しながら遊泳します(動画:キタミズクラゲのプラヌラ)。プラヌラには口がなく何も食べませんが、刺胞を持っています。メスから遊離して数日後には基盤に付着し小さなポリプに変態するのですが、刺胞は付着に必要であったり、変態後に備えて体内に生産しているのでしょう。初期のポリプは触手が4本ですが、餌を捕って成長するにつれ、8本、16本と増えていきます。
ポリプは口の周囲に16本の触手を持った小さな(<2 mm)イソギンチャクのような形をしています。付着生活をしますが、分裂や出芽によってクローンをつくり無限に増殖します。出芽は触手に似た走根(ストロン)の先端部に小さなポリプが形成される現象です。走根が基盤に付着し、そこに黄土色をしたポドシストを形成することもあります。ポドシストからは条件が整うと小さなポリプが発生します。ポリプは高い再生能力を持ち、触手の破片から個体全体が再生することが報告されています(2)。また、ポリプを細かく刻み、コラゲナーゼ等で処理して細胞レベルにまでバラバラにした懸濁液も、放置しておくと、翌日には細胞同士が集合して自転する球形の細胞塊が形成され(動画:自転する細胞塊)、1週間後には多数の微小なポリプが発生します。さらに、ポリプは数ヶ月の絶食にも耐えられます。まるで不死身ですが、環境の変化には弱く、淡水にさらせば短時間で死滅してしまいます。

季節がかわり、水温が8~10℃低下すると、ミズクラゲのポリプはストロビレーションと呼ばれる第二の変態を始めます。はじめに触手のすぐ下にくびれが1本でき、ついで、その下にさらにくびれができて、くびれの数が増えていきます。ポリプの体は次第に長く伸び、くびれは5~17本くらいまで増加します。次第にくびれは波打った形になり、色が濃くなってエフィラ幼生の縁弁ができあがります。温度低下から5週間程度たつと、先端側からエフィラが拍動を始め、1匹ずつ遊離します(動画:ミズクラゲのストロビレーション)。
(1) New observations on the asexual reproduction of Aurelia aurita (Cnidaria, Scyphozoa) with comments on its life cycle and adaptive significance. Alejandro A Vagelli, Invertebrate Zoology, 4, 111-127 (2007)
(2) Scyphistoma Regeneration From Isolated Tentacles in Aurelia Aurita. Georgia E. Laurie-Lesh and R. Corriel, J. Mar. Biol. Ass. U. K. 53, 885-894, (1973)