日本には約 4500 種の魚類が生息しており,そのほとんどに標準和名(standard Japanese name)がつけられている。標準和名とは日本国内で共通に使用できる和名である。一部の種ではまだ学名が定まっておらず,「○○属の一種」と表記される場合もある。地方名も和名の一つである。たとえば,カサゴ目魚類である Sebastolobus macrochir の標準和名はキチジで,キンキンやメンメなどの地方名(方言)がある。特定の地域で使うものであれば,他の地域では意味が通じないということも起こりうる。他にも成長段階によって呼び名が違う場合がある。たとえば,ブリやスズキなどは出世魚と呼ばれ,成長にしたがって名前を変えていく。また,イワシやニシンなどの子供はシラスと呼ばれ,親と区別される。このように,和名には標準和名,地方名,成長段階による名前があるが,一般的に和名というと標準和名を指す。
規約によって一つの種を一つの学名で表すことになっているため,種と学名(有効名)は
1 対
1 の関係にある。しかし,これらは連動しているわけではなく,たとえば古参異名が新たに見つかれば,学名はその古参異名に変更される。一方,種と標準和名は基本的には連動しており(ときどき和名が変更されることもあるので,つねに連動しているわけではない),その点で種と学名の関係とは異なる。なかには
1 種に対して
2 つの和名がつけられている場合もあるが,むしろ少数派である。
種と標準和名は基本的に連動し,種と学名は連動していないので,学名と和名も連動していないことになる。つまり,ある種の学名が変更されても,和名はそのまま使われるのである。たとえば,オグロトラギスというトラギス科魚類がいる。かつては
Parapercis hexophtalma の学名が与えられ,インド洋および南日本を含む西部太平洋に広く分布すると考えられていた。しかし研究の結果,日本からインドネシアまでの西部太平洋に分布する個体群は新種であることがわかり,
Parapercis pacifica の学名が新たに与えられた(
Imamura and Yoshino, 2007)。しかし,和名はオグロトラギスがそのまま使われている。学名は変わっても,種の実体が変わるわけではないので,種に対する標準和名まで変更する必要はないのである。