種は異なるのに,まったく同じ学名がつけられてしまうケースもある。これを同名(または異物同名,ホモニム)(homonym)という。同名関係は属や科でも生じる。同名関係に対しても先取権の原理が適用され,先に名付けられた古参同名が有効名となり,後でつけられた新参同名が無効名となる。
古参同名はそれまでどおりに当該分類群の学名として使えばよいが,問題は無効名となった新参同名である。無効名なので,その分類群に対して使えない。もしその分類群に新参異名があるなら,それを有効名として使うことになる(複数の新参異名があれば,そのうちの最も古い名前が選ばれる)。もし新参異名がないなら,置換名(replacement name)を提唱して,無効名となった新参同名と置き換える。
一次同名と二次同名
同名には 2 種類ある。たとえば,前述のように
Platycephalus
grandisquamis Regan, 1908 と Platycephalus grandisquamis
Weber, 1913 の 2 種があり,後者は設立された時点で前者と同名である。この場合は一次同名(primary homonym)と呼ばれ,後者は新参同名(新参一次同名)で,永久に無効となる。
一方,たとえばコチ科に Onigocia macrolepis(Bleeker, 1854)(アネサゴチ),アカゴチ科に Bembras macrolepis Imamura,
1998 という種がいる。両者は科レベルで異なる種なので,実際にはありえないが,仮に後者を Onigocia(アネサゴチ属)に含めると Onigocia macrolepis(Imamura,
1998)となり,これは前者と同名である。このように,のちに別属に移されて同名になる場合は二次同名(secondary
homonym)と呼ばれる。この例では新参同名(新参二次同名)である後者が無効名となるが,帰属が変われば同名関係は解消される。
二次同名の場合,もしも
1960 年以前に新置換名が提唱されていれば,のちに帰属が変わって同名関係が解消されたとしても,置き換えられた新参二次同名は永遠に無効となる。しかし,1961 年以後に新置換名が提唱され,後に 2 者が同属ではないと考える著者が現れれば,その著者によって新参二次同名は復活させられる。