新しい学名は,どんな出版物に出してもよいわけではない。規約には「公表の要件」として,3 つの条から構成される章がある。
規約第 4 版が出版された 1999 年当時はインターネットがいまほど普及しておらず,現在では一般的となっているネット上でのオンライン出版に対する条は盛り込まれていなかった。2012 年の改正により,一定の条件を満たせばインターネットによる電子的な公表も認められることになった。
著作物が満たすべき要件としてまずあげられているのが,公的であり,永続的な科学的記録を提供する目的で発行されていることである。つまり,私たちが本屋さんやコンビニで見かけるような一般的な雑誌類に新学名が掲載されていたとしても,それは公表されたことにはならないわけである。また,最初に発行された時点で無料または有料で入手できること。つまり,その気になれば誰でも入手可能なものでなければならない。
電子的な著作物についても要件を簡単に説明しておく。まず,2012 年以降に発行されたもので,その著作物のなかに公表の日付が示されていること。また,「Official Registry of Zoological Nomenclature」(別名 ZooBank)という著作物の登録所があるのだが,そこに当該の著作物が登録されており,その証拠がその著作物に示されていること。登録すると登録番号が割り振られるので,その番号を著作物中に示せばよい(ただし,登録番号はその著作物中で提示する。あとで別の場所で示すことは認められていない)。たとえば,私が 2018 年に出版したアカゴチ科の 2 新種の論文には,513182C5-0EB0-438C-85AA-27338C25E156 の登録番号が示されている(Imamura et al., 2018)。
公表したことにならないもの
規約には公表したことにならないものについても書かれている。たとえば,学会で新種の発表を行い,講演要旨集で「この新種に対しては○○の学名を与える予定である」と書いたとしても,学名を公表したことにはならない。
また,公表は棄権することができる(棄権宣言という)。私が所属する「日本魚類学会」の講演要旨集では,「棄権宣言 この講演要旨は国際動物命名規約における命名法的行為や情報の公開を目的としたものではない」と謳っている。上述のとおり,そもそも講演要旨集での新学名の発表は規約のいう公表にはあたらないのだが,念には念を入れて,万が一にも講演要旨集から命名法的混乱が発生しないように配慮しているのである。