このように説明すると,側系統群と多系統群は異なるもののように感じられるだろう。しかし,実は両者は厳密には区別できない。もう一度,鳥とコウモリの例を使って説明しよう。鳥もコウモリも,どちらも脊椎動物の仲間であり,そういう意味では比較的近縁といえる。鳥とコウモリの祖先をさかのぼっていけば,そのうち共通の祖先にたどり着く。つまり,鳥もコウモリもその共通祖先から派生した子孫となる。鳥とコウモリをまとめ,その他の子孫をすべて除いてしまえば,鳥とコウモリからなる群は「共通祖先から派生した子孫から一部を除いた群」となる。除いた「一部」の種数が非常に多いが(爬虫類とコウモリ以外の哺乳類を除くことになる),さきほど説明した側系統群の定義とまったく同じである。図 1.9B のような典型的な側系統群と多系統群は異なるもののように見えるので,説明のしやすさからこれらの用語を使うこともあるが,突き詰めると両者は区別することができない。このため,私は多くの場合,両者をまとめて非単系統群(non-monophyletic group)として扱うようにしている。
単系統群に分類群名を与える
多くの研究者は,共有派生形質で定義できない非単系統群を分類群として認めておらず,単系統群のみに分類群名を与える。私もそのような研究者の一人である。先ほどの
Neoplatycephalus とコチ属の例では,Neoplatycephalus は単系統群で,コチ属は非単系統群である。したがって,このままではコチ属は分類群として認めがたく,新しい分類体系を検討する必要がある。やりかたはさまざまであるが,最も受け入れられやすいのは,変更をなるべく少なくした体系だろう。そこで私は,このグループ全体を
Platycephalus(コチ属)とし,Neoplatycephalus の名前は使わないことにした。そのため,たとえば
Neoplatycephalus conatus
は Platycephalus
conatus に変更される。みなさんのなかには,このグループを Neoplatycephalus とし,Platycephalus を使わないことにしてもいいのではないかと思った人もいるかもしれないが,それはできない。もちろん理由があるのだが,それは第
2 章の「国際動物命名規約について」で説明する。