本研究では、産業現場の現状分析と、そこに内包される広範な労働問題の解明のため、〝人材消失〟という危機に瀕している日本漁業に注目し、海の幸を食卓に届け続けてきた産業の変化を把握しようと試みた。すなわち、日本漁船で汗を流すインドネシア人漁船員に注目、彼らを「船上のディアスポラ」と定義し、国民の目から遠ざけられる〝この集団〟がどのような人たちで、誰のために、何をしているのか、杳として知れない現実を日本漁業が抱える問題の根幹に据え、研究のスタートラインとしている。
分析の結果、漁船漁業における技能実習制度が、外国漁船で働くことで暮らしの向上を目指そうと努力し、水産教育機関に夢を託したインドネシアの若者を吸いあげ、日本漁船の船上で結節することを後押ししていることを描写した〔『産業構造の変化と外国人労働者』〕。
加えて、漁業に人生をかけると決めた者同士が、命を落とすかもしれない荒波のなか、狭い船上で時間と空間、そして危険を共有し続けることの意味は計り知れず、高い専門性を構築していく彼らは代替しがたい存在感を発揮するようになっていることに言及した。
ただ同時に、「船上のディアスポラ」への依存を続けるということは、国家の食料安全保障政策に直結する問題であるとの認識のもと、国民的な議論を必要とすることも指摘した。