Topic outline
漁業と「国策」との親和性に関する近代史研究(近代産業史研究)
- 近代史では、政府の殖産興業政策と富国強兵策との関係で、漁業の発展経路を解明。⇒近代日本の水産教育と遠洋漁業との蜜月関係が、国家主導による漁業の近代化・資本化と、日本の国力増強・版図拡大とが並行して目指されたなかで定着しており、水産教育の営みと国家の意志とが不可分な関係にあったことを明らかにした。
政府の殖産興業政策や日露戦争との関連で分析することで、日本の水産教育に刻印された構造的特質は、「遠洋漁業奨励法」によって創出された職業資格制度を基礎に、日露戦争後の版図ならびに漁業権益の拡大を志向する国家政策で求められた人材を養成する、「遠洋漁業型水産教育」にあったことを解明。
写真は明治中期に外国猟船に対抗した日本の漁猟船と甲板上の膃肭臍毛皮。
漁業と「国策」との親和性に関する研究(基地・領土問題と漁業)
- 現代史では、安全保障政策と漁業の関係に注目し、海面の埋め立てをともなう基地問題や東シナ海問題(尖閣諸島問題)・南シナ海問題(海の覇権争い)の解明に取り組む。⇒前者では、基地問題という国策が最も凝縮され、かつ国家の意志に触れることができるテーマに注目することで、現代国家における産業と国民のおかれた位置を解明。後者では、漁業を主権、国力、法の三つの観点から分析し、日本の遠洋漁業の歴史と現在を国際環境にてらしながら包括的に検討。
国境水域で漁業は「国連海洋法条約」や二国間の漁業協定は締結されていても、繰り返される紛争や覇権争いに巻き込まれてきたことを指摘。
さらに、日本は領土問題では一歩も引けないが、国際関係の維持も優先せねばならず、漁業外交では不利な譲歩が続いていることを指摘。
「国境」の最前線での実態調査
-東シナ海と南シナ海の連動性に注目して-中国浙江省の漁村。不動投資が活発でビル群が乱立する。
インドネシアのマナド。現地の経済は地下経済も含めると9割ほどを華僑が占有しているとされる。
地方政府の要職(裁判官など)へも華僑が進出。インドネシア人は、漁業分野でも華僑に雇用さる側。
日本の漁船漁業に、技能実習生として活路を見出す者が多数。そしてそれが立身出世のコース。
漁業・水産加工業の持続的展開に関する研究
- 持続的展開に不可欠な要素として、人材(労働力)と経営・加工・流通に注目。
- 人材(労働力)に注目するのは、漁業就業者の急減と「超高齢化」状態という現実が背景。水産加工業も、都市部から離れた僻地に存立することが多いため、日本人若年層の確保は相当困難な状況。
- その結果、外国人労働力への依存が、深く・着実に、そして「取り返しのつかない」レベルで進行。
- 漁業も水産加工業も持続的展開に不確実性が高まっている。
本研究では、産業現場の現状分析と、そこに内包される広範な労働問題の解明のため、〝人材消失〟という危機に瀕している日本漁業に注目し、海の幸を食卓に届け続けてきた産業の変化を把握しようと試みた。すなわち、日本漁船で汗を流すインドネシア人漁船員に注目、彼らを「船上のディアスポラ」と定義し、国民の目から遠ざけられる〝この集団〟がどのような人たちで、誰のために、何をしているのか、杳として知れない現実を日本漁業が抱える問題の根幹に据え、研究のスタートラインとしている。
分析の結果、漁船漁業における技能実習制度が、外国漁船で働くことで暮らしの向上を目指そうと努力し、水産教育機関に夢を託したインドネシアの若者を吸いあげ、日本漁船の船上で結節することを後押ししていることを描写した〔『産業構造の変化と外国人労働者』〕。
加えて、漁業に人生をかけると決めた者同士が、命を落とすかもしれない荒波のなか、狭い船上で時間と空間、そして危険を共有し続けることの意味は計り知れず、高い専門性を構築していく彼らは代替しがたい存在感を発揮するようになっていることに言及した。
ただ同時に、「船上のディアスポラ」への依存を続けるということは、国家の食料安全保障政策に直結する問題であるとの認識のもと、国民的な議論を必要とすることも指摘した。