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    • 北方生物圏フィールド科学センター・厚岸臨海実験所で実施される実習の紹介です

    • 海の潮間帯から潮下帯に生息する大型植物(海藻や海草)が主体となった景観的なまとまりを「藻場」と呼ぶ。藻場のうち、種子植物である海草類(アマモなど)が主体となるものは「アマモ場(Seagrass bed)と呼ばれる。アマモ場には多様な動物が生息し、その現存量も大きい。動物各種はアマモ場を生息空間、餌場、隠れ家、産卵場所などさまざまな用途で利用しており、その結果、複雑な種間相互作用が成立している。

      本実習では、環境の異なる厚岸湖・厚岸湾のアマモ場において、同じ方法を用いてアマモ場の動物を採集する。その生物量と種多様性を計測・比較することにより、アマモ場の生物群集のなりたちと変動様式を理解する。

    • 【準備するもの】

      野外:スコップ、大型の篩(1 mm メッシュ)、ポリ袋(Ziplock、持ち運び用バケツ(トスロン)、記録用紙(耐水性のものがよい)、そりネット、氷を入れたクーラー、箱メガネ、虫よけスプレー、虫よけネット

      実験室:トレイ、小型の篩、ピンセット、シャーレ、濾紙

      データ解析:電卓、ノートパソコン

       

      【野外調査】

      1.     午前中に小型ボート(船外機)および車に分乗して、厚岸湾東岸、北岸、および厚岸湖北岸、東岸のアマモ場に行く。4班にわかれて、それぞれ班ごとにボートに乗って、そりネットでアマモ場の動物を採集する。

      2.     船を待っている間にアマモ場の干潟部分のアマモ類を観察する。詳しい説明は現地で行う。

       

      【室内作業】

      3.  実験室に戻った後、ソーティングを行い、生物を分類群ごとに分け、個体数を数える。分類群への同定は、図鑑などを用いて、外部形態でわかるところまで行う。

      4.  得られたデータを下に、アマモ場の動物の種多様性の変異や類似度を統計的に解析する(下記資料を参照のこと)。

      5.  もし時間に余裕があったら、代表的な魚類やエビ類について、解剖して胃内容物を調べてみる。それを元に、アマモ場における食物網を図に表してみる。

      6.     以上の結果をもとに、アマモ場の生物群集構造および食物網がどのような要因に影響されて決まっているかについて考察する。

    • 【種多様性の解析方法】

      今回は、次の変数を求め、環境の異なる場所間で比較してみる。

      1:種数(種の豊富さ、species richness: 一つのサンプルに出現する種の総数

      2:多様度指数(diversity index): Simpsonの多様度指数を利用する

      3:相対優先度曲線

      4:群集の類似度の解析

    •  【多様性の解析】

      仮に種数が同じ群集であっても、各種の個体数の相対的な比率(均等性)の違いによって、その群集の豊富さは異なった印象を与えるであろう。多様度指数とは、「種の豊富さ」と「種組成の均等さ」の2つの要素により群集の多様性を表す指標で、種数と各種の個体数から計算する。よく使われる指数として次の2つのものがある。

       

      Shannon-Weiner 多様度指数

       

       シンプソンの多様度指数

       

      いずれも、S: は種数、pi: 全個体数の中でi種が占める割合(相対優占度) を示す。

    • 数値例を示す。種数が同じでも均等性の違いにより多様度指数が異なるのがわかる。


    • 【群集の類似度の解析】

      類似度指数は、2つの群集で出現する種構成と各種の個体数が全く同じ場合を100%、全く異なる(共通種が1種もでない)場合を0%として、その違いを連続的に表すものである。多数の異なる方法が開発されているが、今回は下式に示すBray-Curtis similarity indexを利用する。


      Sjk: j番目のサンプルとk番目のサンプルの類似度

      Yij: j番目のサンプルのi番目の種の個体数(現存量、被度)


      類似度指数は2群集ごとのペア間で求める値なので、nサンプルからなるデータセットの場合はn(n-1)/2の類似度が求まることになる。これを対戦表の形で表したものを類似度行列を呼ぶ。

      類似度行列を元に、群集間の類縁関係を視覚的に表す方法が多数開発されてきる。大きく分けると、1) 類似度の大きさに応じて群集を分類(分割)するclustering (クラスター解析)という方法と、群集の類似度の違いを距離の差に見立てて2次元(3次元)空間にプロットするordinationという方法の2種類がある。それぞれの方法の特徴、利点、欠点を理解するには多変量統計解析の知識が必要であるが、ここでは、比較的簡単なクラスター解析による群集の分類を行う。クラスター解析では、より似通った群集がより近い位置になるように群集の位置を配置する。その方法も多数あるが、今回は手計算でできるgroup-average linkageによる連結法を紹介する。

    • 1:元の4x4の類似度行列ではsample 24の類似度[S(2,4)=68.1%]が最も高いので、この2つをまず連結

      2:sample 24のデータを合わせた3x3の類似度行列を作成 S(1,2&4)=[S(1,2)+S(1,4)]/2=38.9%S(3,2&4)=[S(3,2)+S(3,4)]/2=55.0%

      3:3x3の群集行列ではS(3,2&4)が最大なので、次にこの2つを連結

      4:最後に1と2&3&4を連結 S(1,2&3&4)=[S(1,2) + S(1,3)+ S(1,4)]/3=25.9%


      群集構造のデータ表


      類似度行列(連結前)


      類似度行列(2&4を連結後)


      類似度行列(2&3&4を連結後)



    •   厚岸臨海実験所