海洋生態学実習 1: 海洋環境と植物プランクトン
北方生物圏フィールド科学センター・厚岸臨海実験所で実施される実習の紹介です
北方生物圏フィールド科学センター・厚岸臨海実験所で実施される実習の紹介です
海洋生態系における物質循環(食物連鎖(網))の出発点は植物プランクトンである。そのため、植物プランクトンの分布や光合成を制御する因子を調べる事は、海洋生態系の更なる理解および地球温暖化を含めた気候変動を予測する上で大変重要である。植物プランクトンの光合成において光や栄養塩(窒素、リン、ケイ素)は必要不可欠な要素である。特に、水中に入った光は、水分子、 懸濁物質、 有色溶存有機物など様々な物質によって吸収されるため、 水深が深くなるにつれどんどん減衰していく。そのため、陸上と比べて、水中内の光環境は暗い。
植物プランクトンは効率良く光を吸収するため、また強光の際には自身を保護するために、クロロフィル類、カロテノイド類、フィコビリンなど様々な色素を有している。植物プランクトン種の違いによって有する色素は異なるが、全ての植物プランクトン(例外1種あり)は「クロロフィルa」という色素を必ず持っている。そのため、この色素は植物プランクトンの現存量を表す指標として、世界中で測定されている。
今回の海洋生態学実習では、基本的な海洋観測の手法と採水方法、蛍光光度計を使ったクロロフィルa濃度の測定を会得する。また、簡単に顕微鏡観察を行う。 班毎に異なる地点で観測、その後測定をおこない、 後ほど班毎のデータを付き合わせることで、海洋環境とそこに生息する植物プランクトンとの関係を考察し、理解を深めることを目標とする。・準備するもの(実習スタッフで用意します)
観測野帳とクリップボード、鉛筆、透明度板、CTDセンサー、ひもつきバケツ、クロロフィル測定用採水ボトル、プランクトンネット(目合い20 µm)、プランクトンネット用採水ボトル
透明度の測定が終わったら、観測野帳に記録する.
採水後はボトルをクーラーボックスへ.
船上にて採取した海水を実験室に持ち帰り分析を行う. 今回は, ターナー蛍光光度計(Model 10-AU, Turner designs)を用いた定量法により定量を行う(Welschmeyer, 1994). 植物プランクトンの色素抽出には有機溶媒であるヂメチルホルムアミド(DMF)を用いる(Suzuki and Ishimaru, 1990).
用意するもの
船で採取した海水、 メスシリンダー、 ろ過機、吸引ポンプ、 真空ゲージ、 ガラス繊維フィルター(GF/F、口径ca. 0.7 µm、 直径25 mm)、 ピンセット、 ザルスタットチューブ、 ガラスチューブ(10 ml)、 ラベル用シール、 DMF、 Turner蛍光光度計、 実験用手袋ろ過の手順
測定の手順
自分たちの班で採取した検鏡用サンプルに、どのような植物プランクトンが出現するかを顕微鏡で観察する(1時間くらい). サンプルに含まれる植物プランクトンを出来るだけ多く同定する。プランクトン図鑑などを用いて、種名までわかるものは種名まで、属名までわかるものは属名まで、それより上位の分類群までしか同定できないものはそこまでを同定し、その結果を採集地点毎に黒板に記入する。
データをもとに、 以下に示すJaccard係数にて計算することで各観測点の類似度を計算し、さらに、その類似度からクラスター解析を実施してデンドログラムを作成してみよう。 (2)
調査地点の違いによる環境要因および植物プランクトンの現存量を比較できるように、 自分たちのデータを黒板に記入しよう。
レポートでは、まず黒板に記入された情報を、論文の様に地図、表、図などにして、取りまとめてみよう。どれを図にするか表にするかなどは、レポートの文章と合わせて、どの様に書くのが一番読者に伝わるのか、を意識して作成してみよう。得られたデータの相関などを調べて、それも加えて結果で示したり、考察しても良いでしょう。最終的には、クラスター解析の結果も踏まえて、クラスター解析の結果が何によって反映されているのかなどを、水温・塩分などの物理データから総合的に捉え、考えられることを思い切って考察してみましょう。