章节大纲

    • 亜熱帯循環や亜寒帯循環を構成する循環流が西側(北太平洋であれば日本列島寄り)で強化される現象を理解するため、渦度と渦位について説明する。


      渦度と渦位
      渦度とは回転の速さを表す。回転角ラジアンは「弧の長さ/半径」なので無次元である。ラジアンの時間変化が渦度であり、その単位は[1/s]である。渦位は、回転の速さ(渦度)/(単位面積あたりの質量)で表されて、その流体に外力が働かない限り保存される。密度を一定とした場合、渦位は簡潔に、渦度/高さで表される。以下に詳しく説明する。


      惑星渦度:地球上の物体は、その場で動いていなくても、地球自転により回転している(下図左)。その回転の速さを惑星渦度(f)という。赤道では地球自転軸成分がゼロなので、惑星渦度もゼロ、極方面で惑星渦度が大きくなる。


      相対渦度:地球上で物体が回転していれば、その回転の効果も加わる。その回転の速さを、相対渦度(ζ)という。


      渦位:惑星渦度(f)と相対渦度(ζ)を足したもの(=絶対渦度)を、その物体の高さ(H)で割った値を渦位(q)という。渦位を変化させる要因となるのがf、ζ、Hの変化であるが、渦位が保存するように、その物体(水など)が南北に移動したり、回転の作用が加わったり、物体の高さが変わったりして調節される。

    • 海洋に水の塊があり、その水塊の上に別の水が覆いかぶさってくると、下の水は押しつぶされるように薄くなる(Hが減少)。渦位保存のため、薄くなった水の塊は南へ移動する(fを小さくする)。これが後で説明する表層直下の内部領域の南下現象(スベルドラップ輸送)の原理である(下図参照)。なお、相対渦度(ζ)を小さくして渦位を保存してもよいと思うだろうが、亜熱帯や亜寒帯の循環域で内部領域の水が南下する現象が確認されている。(そのため、fを調整することで渦位を保っているといえる)

    • 下の図aのように、偏西風と貿易風によるエクマン輸送で亜熱帯では表層混合層(0 - 50 mほど)に水が収束する(海面が盛り上がる)。表層に集まった水は混合層直下に少しずつ沈み込む(サブダクション)。このサブダクション層が、さらに下層の内部領域の水を押し付ける。内部領域(100 - 1000 m)の水が縦方向に縮むことで、渦位保存のため内部領域の水が南下する。

      上図は海面上昇をかなり誇張して描いている。実際の海面上昇は中央付近で50 cm程度、黒潮域は最大200 cm程度である。北太平洋のスケール(数千キロ)に比べたら、随分小さな海面上昇であるが、巨大な表層循環が生むには十分である。

    • 下図に、エクマン輸送とスベルドラップ輸送(細い矢印)、循環流(太い矢印)の様子を水平的に描いた。亜熱帯循環域では、東西幅広いところのエクマン輸送により水が集まり、海面が盛り上がる。その盛り上がりに応じて、スベルドラップ輸送による南下流が生じており、その東西幅も広い。これらの水を循環させるには、西側で北上する流れが必要である。南下流は東西全域、北上流は西側に寄せられて強くなる。これを循環流の西岸強化と呼び、北太平洋亜熱帯の西岸境界流は黒潮、亜寒帯では親潮となる。なお、亜寒帯循環域ではスベルドラップ輸送輸送により内部領域の水は北上する。

      これは直感的な理解を促すための説明である。海洋物理学の理論に基づいた正確な説明は海洋物理学の教科書に託す。定性的な理解から、数式を用いた理解につなげる教材として「海洋の波と流れの科学(宇野木・久保田),東海大学出版」があるので、参考にするとよい。

    • 渦位保存則の例①:海峡など、水が一定方向に一様に流れていると、その水自体は回転していない(相対渦度ζがゼロに近い)。流れの先に凹地があり、流れてきた水が凹地を通過すると、水が引き伸ばされる(Hが大きくなる)。渦位を保存するため、相対渦度(ζ)が大きくなる。渦度の正は地球自転回転方向なので、凹地にはまった水は反時計回りに回転する。その回転が海底まで到達すると、底層エクマン流が発生して海底付近の水を浮上させる効果が働く。そのため、このような地形で局所的な湧昇が発生、栄養豊富な水が表層にもたらされることがある。

      渦位保存則の例②:黒潮の流れも渦位を持っていて、それを保存するように動く。黒潮が日本の南にある伊豆海嶺を超えるとき、黒潮のHが小さくなるので、流路が南へ移動したり(fを小さく)、時計回りの回転を強くしたり(ζを小さく)する。これが大蛇行を生じる原因である。

    • 海洋化学コースもくじ:https://repun-app.fish.hokudai.ac.jp/course/view.php?id=457