波を用いた水中観測 ~音で海中をのぞく~
海洋を観測する際には,深度という空間的な情報を考えなくてはならないことが陸上と最も異なる点の一つである。例えば,生物種ごとの分布を調べる場合,海洋では水平的に同じ場所であっても深度によって生息している生物が全く異なる。つまり,海洋では3次元的な非常に広い空間を相手に観測をすることとなる。さらに海洋では光が届きにくい,水圧がかかるといった問題から直接その場所を観測することが非常に難しい。そのため,海洋を効率的に観測するためには,遠隔的に広い範囲を観察できるツールが必要である。
音波は電波や光と比べて,液体中や固体中でも良く透過するという性質を持つ。そのため,音波は水中を広範囲に見渡すための最良のツールとして利用されている。当研究室では,この音波を利用した海洋観測,特に海洋生物の資源量推定に関する研究をメインテーマに取り組んでいる。魚類から動物プランクトンまで,音波で観察できる様々な生物を対象とし,それらの資源量を精確に見積もるための研究を行っている。
音波で海中をのぞくことで今まで知り得なかった,見えなかった色々なものが見えてくる。ここでは,音波を利用した観測機器や,どのように海洋生物の資源量を推定するのかを紹介する。音波は遠くに行くほど広がっていくため,遠距離になるほど広い範囲を探索できる。逆に近い場所の探索範囲は狭くなってしまう。そのため,魚探機で観測する場合には,浅い深度(表層)は探索できる範囲が狭く,また,船底より浅い場所の魚群を見つけることはできない。スーパーでも見ることができるイワシやサバ,サンマは魚探機の苦手な表層を中心に分布する魚である。このような魚を効率よく見つけるためにソナーが使われる。
ソナーは魚探機と同じく魚のエコーを探知する機器であるが,音波を水平方向に発射することができる(図4)。さらに船の周りに対して音波をぐるっと1周発射できるので,魚探機と比べて広い範囲を探索することができる。同じ魚群を連続してとらえられれば魚群の動きも3次元的に知ることができる。図では,ある俯角(見下ろす角度)の例を示しているが,この俯角も変えることができ,様々な魚群に対応することができる。
テレビでも放映されることのある大間のマグロ漁船にもソナーが搭載されており,マグロ魚群の動きをソナーで知り,先回りして魚群の前から餌を落としてマグロを釣っている。
近年,サンマの不漁が続いていることから,その資源量調査が重要視されている。サンマの探索には魚探機よりもソナーが適していることから,ソナーを利用した資源量推定が注目されている。