海洋生物資源科学部門・海洋計測学分野・向井・長谷川研究室の紹介です
海の魚は同じ種で群れをなして移動することが多いです。どのような種類・どのような大きさの魚がどこに泳いでいるか。これがわかれば効率的な漁業や資源の管理ができるでしょう。超音波で魚群の探知が正確にできるようになれば、無駄な漁獲をしなくて済みます。海の豊かさを守るとともに、持続的な食料供給を可能にすることでSDGsに貢献したいと思います。
国連では2021年からの10年間を、「海洋科学の10年」に定めて、SDGsに貢献することを目指しています。国連が定める海洋科学には、水産漁業の分野も含まれます。
海洋観測において‘位置’を知ることは重要な項目の一つである。
例えば,対象生物の移動や行動を知るためには,その生物がいつ・どこにいたかという情報は必須である。
また,直接的な観察対象でなくても,船から観測機材を用いて水中を観察する場合には,その観測機材がどこにいるかを知ることが必要になる。
陸上や水面であればGPSによって位置情報が得られるが,水中で電波は遠くまで届かないため使用できない。そこで,水中で位置を知るための手段にも音波が利用される。
地図を見ながら自分の位置を知るためにはどうすればいいだろうか?おそらく,地図に記載されている分かりやすいランドマーク(物標)を頼りに位置を推測するのではないだろうか。
自分とランドマークの位置関係を知るための情報としては,①ランドマークまでの距離,②ランドマークの方角,がある。
これらの情報を組み合わせることで,自分の位置を知ることができる。これは,水中においても同じである。
トランスポンダーは,水中測位に用いられる音響機器の一つである。トランスポンダーは,特定の音響信号(質問信号)を受け取ると,応答信号を発信する。
音速を c,質問信号を発信してから応答信号が返ってくるまでの時間を t とすると,トランスポンダーまでの距離 r は, と計算できる。
トランスポンダーをランドマークと考えると,位置を知りたい物(例えば水中を観察する観測機材)から質問信号を出してやれば,相互の距離を知ることができる。実際には,3カ所にトランスポンダーを設置し,それぞれトランスポンダーまでの距離を測定することで,位置を知ることができる。
1カ所までの距離が分かれば一つの円が描ける。つまりこの円のどこかに位置していることが分かる。2カ所までの距離が分かれば,もう一つ円が描け,交点が2個でき,どちらかの交点に位置していることが分かる。さらに,もう一カ所までの距離が分かれば,3つの円の交点は1個となり,位置が特定できる。
音がどの方向から到来したかを知るためには,複数の音を受け取る装置(受波器)を使う。図のように受波器を2個設置すると,音の到来する方向によってそれぞれの受波器が同じ音を受け取る時間に差が生じる。この時間差(t2 - t1)と,音の到来方向(θ)は受波器①と受波器②の設置間隔(d)を用いて, と表せる。
この条件を満たすθは2個存在するので,もう2個の受波器を設置して時間差を測定することで,音の到来方向を決定できる。
ある2地点の相互の距離と方位が同時に分かれば,それぞれの位置関係を知ることができる。これを利用した測位法も用いられる。
トランスポンダーを用いる場合,その応答信号を複数の受波器(受波器アレイ)で受け取り,音の到来方向を計算することで,トランスポンダーの位置を知ることができる。