海洋の塩分
LASBOS YouTube 授業動画(海洋の塩分)
海洋大循環は、熱塩循環ともいいます。高塩分の水が冷やされると、高密度の重たい水ができます。高密度水が次々と沈んでゆくことで、海洋の循環が起きます。下の図のように、1)深層水ができる場所、2)深層水が再冷却され、高塩分水を含んで底層水ができる場所、3)底層水が深層で厚みを増し深層循環が終わる場所を模式的に示しました。これらの場所が何処であるか、理解しましょう。
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海洋大循環は、熱塩循環ともいいます。高塩分の水が冷やされると、高密度の重たい水ができます。高密度水が次々と沈んでゆくことで、海洋の循環が起きます。下の図のように、1)深層水ができる場所、2)深層水が再冷却され、高塩分水を含んで底層水ができる場所、3)底層水が深層で厚みを増し深層循環が終わる場所を模式的に示しました。これらの場所が何処であるか、理解しましょう。
海水に溶けているものは何かと聞けば、“シオ(塩)”という答えが多く返ってくるでしょう。海水に溶けている“シオ”の主成分は、強電解質のナトリウムやカリウム、マグネシウム、カルシウムなどの陽イオン成分(Na+, K+, Mg2+, Ca2+、 etc.)と塩素や臭素、硫酸などの陰イオン成分(Cl-, Br-, SO42-)です。海水に溶けているイオン成分の総量を塩分(Salinity)といいます(補足参照)。
これらイオン成分の濃度や成分比率はほぼ一様ですが、海洋表面付近では淡水の流入や蒸発により僅かな塩分変化が生じるため、海域による特徴が見られます。例えば、亜熱帯海域では蒸発が淡水流入を上回るため高塩分(34~37.5‰)、亜寒帯表面はその逆で低塩分(32~34‰)なのが特徴です。亜熱帯で蒸発した水が亜寒帯に降雨でもたらされるのが大まかなイメージです。
化学でいう「塩」と、海洋学でいう「塩」は意味合いが違います。
亜熱帯が高塩分、亜寒帯が低塩分なのが大まかな特徴ですが、太平洋と大西洋で比べると表層塩分に違いがみられます。この違いを説明します。
下の図は、海洋表面の塩分分布で、濃い赤ほど、高塩分を表しています。白い太線で記したのは、塩分34.5のところです。太平洋では亜熱帯域が塩分34.5のラインで囲まれています。北太平洋亜熱帯は塩分34.5から36の範囲です。北太平洋亜寒帯は、塩分34未満です。いっぽう、北大西洋では塩分34.5以上のエリアが北極の方まで張り出しています。太平洋に比べて、大西洋の方が、高塩分なのです。なぜ、このようなことが起こるのでしょうか。
大西洋の熱帯や亜熱帯で蒸発した水分を多く含む空気は、貿易風により西へ流され、中米の低い山々を越えて太平洋にもたらされます。太平洋の亜熱帯や熱帯でも蒸発が活発で、その水分を多く含む空気は西へ流されます。太平洋の西側へ流された水分は、季節風で陸地に雨をもたらし、河川水として太平洋に戻ります。
太平洋の亜寒帯の湿った空気は、偏西風で東に流され、北アメリカのロッキー山脈で遮られて太平洋に戻ります。その結果、大西洋が高塩分化、太平洋が低塩分化するのです。
水温、塩分、酸素、栄養塩などの表層から深層までの分布図を閲覧(データもダウンロード可)閲覧したいパラメタを選択して、解像度(1 or 1/4 degree)と水深を選びます。
海水の密度表記(大事なので覚えてください)
海水の密度は、1.020 g cm-3~1.030 g cm-3の範囲に収まっています。SI単位系にすると、1020 kg m-3 ~ 1030 kg m-3の範囲です。4℃純水の密度は1000 kg m-3だから、34‰程の塩類を含むことで20~30 kg m-3ほど高密度化しています。海水の密度(SI単位系)の千と百の位は、どんなことがあっても、1と0のまま変わりません。
海洋学者は面倒くさがり屋だから、毎度同じことを記したくない。この千と百の位の1と0を取り払って密度を表記することにしました 例えば、1026.7 kg m-3であれば26.7と表記します。何を意味するのか明示するため「σ」をつけます。つまり。26.7σと表記します。26.7σであれば、1026.7 kg m-3です。
北太平洋と北大西洋の表層の塩分を比べます
海水中の塩分を千分率のパーミルで表します。私たちは普段、百分率のパーセントを使うことが多いですが、海洋学の塩分は千分率のパーミルで表します。太平洋に比べて、大西洋のほうが2から3パーミルほど塩分が高いのです。北大西洋と北太平洋の亜寒帯同士で比べても大西洋の方が高塩分です。亜熱帯同士で比べても大西洋の方が高塩分です。塩分の違いを具体的にイメージしてみましょう。
1000 gおよそ1Lの海水に塩が34 g含まれていれば、34‰です。大西洋亜寒帯表層の塩分は34~36‰なので、10 cm×10 cm×10 cm の1Lの水に塩を35 gほど入れた水になります。太平洋亜寒帯表層の塩分は32~34‰なので、1Lの水に塩を33 gほど入れた水になります。大西洋と太平洋、塩の量の差はどれくらいでしょうか。
大西洋と太平洋の塩の量の差を取ると、塩分差は2‰、重量差は2 gです。重量差2gは、塩の体積に換算すると1立方センチメートルに相当します。この、含まれる塩の量の差が、海水の密度差で駆動される海洋大循環を生み出しているのです。
密度を計算してみましょう。北大西洋と北太平洋の亜寒帯、冬場は海の水が冷やされます。水温が2℃まで下がったとします。その時の密度を計算すると、大西洋が、1.02829 g cm-3です。太平洋は1.02668 g cm-3です。その差、0.0016 g cm-3だけあります。
亜寒帯の表面水は夏場水温13℃くらいまで上昇することがあります。そのときの密度を求めました。大西洋亜寒帯で13℃の水の密度は1.02671 g cm-3で、太平洋亜寒帯で2℃の水の密度と同じなのです。太平洋の水は、どんなに冷やされても、大西洋の水より重たくなれません。北大西洋の亜寒帯域で、表面の水が急速に冷やされ、高密度化して深層に沈み込むと、その深層水は、巡り巡って、太平洋の深層まで押し流されてくるのです。
もう一度、海洋表面の塩分分布をみてみましょう。高塩分の大西洋の亜熱帯の水は、メキシコ湾流の強い流れに乗って、高緯度域まで運ばれます。この高塩分の表層水が北極に近いところで急速に冷やされると、高密度の水が生まれて、海洋深層まで重力落下します。毎年冬に深層に水が供給されるので、その深層水が押し流されます。深層循環のスタートです。深層循環については、次回説明します。
海洋の塩分まとめ
海水の塩分を下の図でまとめます。
① 亜熱帯域の表面の水では蒸発が卓越して高塩分化、亜寒帯では淡水流入が卓越して低塩分化します。
② 北大西洋の表面水は高塩分です。北大西洋の高緯度にまで塩分34.5以上の高塩分水が分布しています。
③ 高塩分な北大西洋亜寒帯の水が冬場に水温が2℃まで低下したときの密度を計算しました。
④ 北大西洋では、メキシコ湾流により北上した高塩分水が冬場に冷やされて沈み込み、深層水が形成されます。
人工衛星から、どのように海面塩分を調べるのでしょうか? 不思議だと思いませんか?