セクションアウトライン

    • 海藻は食品としての利用に加えて、抗がん作用、抗高血圧作用、抗肥満作用、抗ウィルス作用など、様々な機能性をもつ成分を含むため、機能性素材としての利用も期待されています。しかし、地球温暖化による近年の気候変動などの影響により、生長不良や病気の蔓延などが起こり、海藻の安定的な生産が困難となりつつあります。これを打開するためには、野菜や果実で行われてきた品種改良が必要不可欠ですが、海藻の育種は遅れているのが現状です。そこで私たちの研究室では、成長量や高機能性成分の合成量に関わる有用遺伝子を探索するための技術開発を行っています。


       期待される様々な海藻の用途

      期待される様々な海藻の用途


    • 遺伝子を細胞内で大量に発現させたり、反対に発現を抑制したりすることで、その遺伝子の機能を知ることができます。私たちはこれらの解析手法に必要不可欠な基本的技術である遺伝子導入技術の開発に取り組んできました。
       遺伝子を導入する方法はいくつかありますが、海藻は細胞壁があるため、動物で用いられている方法が使用できません。そこで、パーティクルガン法と呼ばれる、導入したいDNA(遺伝子)を金の微粒子に付着させて、ガスの圧力により金属微粒子ごと細胞にDNAを直接導入する方法を用いることで、海苔の原料であるスサビノリの細胞にDNAを導入することに成功しました。


    • パーティクルガン(遺伝子銃)法

    • スサビノリの細胞で導入された遺伝子を安定的に発現させるためには、プロモーターと呼ばれる転写制御領域として、スサビノリ由来のものを用いること(転写の促進)、さらに導入遺伝子のDNA配列をスサビノリ遺伝子のコドンに適合するよう最適化すること(翻訳の促進)が重要であることが明らかになりました。


    • スサビノリ細胞に導入した4つの遺伝子コンストラクト

      スサビノリ細胞に導入した4つの遺伝子コンストラクト

              導入した遺伝子コンストラクトの説明

       35S:
       陸上植物に感染するCaMV35Sウィルスの
       プロモーター
       GUS: b-グルクロニダーゼ
      (大腸菌由来のレポーター遺伝子)。発現すると
       細胞が青く染まる。
       GAPDH:
       スサビノリ由来のプロモーター(GAPDH遺伝子)
       PyGUS:
       アミノ酸配列は変化させずにDNA配列をスサビノリのコドンに適合さ   せた改変GUS
       (b-グルクロニダーゼ)遺伝子


      陸上植物で良く用いられているプロモーターである35Sプロモーターはスサビノリ細胞ではほとんど機能しないこと、大腸菌の遺伝子はスサビノリ細胞ではほとんど翻訳されないことが、導入した4種の遺伝子コンストラクトにおけるGUS発現細胞数を調べることで分かりました。



                        


    • 遺伝子導入個体を選抜するためのマーカー遺伝子の開発を目的として、スサビノリのコドンに適合させた改変ハイグロマイシン耐性遺伝子(Pyaph7)を作製し、これをスサビノリ細胞にパーティクルガン法を用いて導入した後、抗生物質であるハイグロマイシンで処理しました。その結果、得られたハイグロマイシン耐性株はPyaph7が導入されていたことから、安定的に遺伝子導入個体が単離できました。


    • PyAct1 promoter:スサビノリ由来のアクチン遺伝子のプロモーター
Pyaph7:スサビノリのコドンに適合させた改変ハイグロマイシン(Hyg)耐性遺伝子



      PyAct1 promoter: スサビノリ由来のアクチン遺伝子のプロモーター
      Pyaph7: スサビノリのコドンに適合させた改変ハイグロマイシン(Hyg)耐性遺伝子


      アマノリ属における遺伝子機能解析技術の開発(安定的形質転換)

    • 選抜マーカーとしてコドン改変ハイグロマイシン耐性遺伝子(Pyaph7)を利用した遺伝子コンストラクトをパーティクルガン法によりスサビノリ細胞に導入した後、ハイグロマイシンで選抜することで目的の遺伝子(PyGUS遺伝子やAmCFP遺伝子)を安定的に発現させることができました。

      ※青く染色された藻体はPyGUSやAmCFPが発現したものです。


    •  スサビノリ細胞に導入した遺伝子コンストラクト

      スサビノリ細胞に導入した遺伝子コンストラクト


      導入した遺伝子コンストラクトの説明


      PyElf1 pro:
      スサビノリ由来のElongation factor 1遺伝子のプロモーター
      Pyaph7:
      コドン改変ハイグロマイシン耐性遺伝子
      PyAct1 pro:
      スサビノリ由来のアクチン遺伝子のプロモーター
      PyGUS:
      コドン改変GUS(b-グルクロニダーゼ)遺伝子
      PtHSP pro:
      アサクサノリ由来のHSP遺伝子のプロモーター
      AmCFP:
      イソギンチャク由来のシアン蛍光色タンパク質

    • 現在は開発できた遺伝子導入技術を応用することで、有用遺伝子を大量に発現させたり、抑制したりする技術の開発を行っています。
       また最近ノーベル化学賞の受賞などで話題となった、標的遺伝子を簡便に改変することが可能な技術であるゲノム編集技術の開発にも取り組んでいます。

      短期間で品種改良が可能なゲノム編集技術を海藻において確立することで、高成長性や高機能性といった様々な用途にあった品種の作出を目標としています。


    • CRISPR/Cas9システムによるゲノム編集

      CRISPR/Cas9システムによるゲノム編集


    •  増殖生命科学科