藻場の保全
海洋生物資源科学部門・海洋共生学分野・海藻学教室の紹介です
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近年,藻場の衰退や消失が世界各地で報告されています。藻場が衰退もしくは消失する現象を日本では磯焼けと呼んでいます。詳細には,「浅海の岩礁・転石域において,海藻の群落(藻場)が季節的消長や多少の経年変化の範囲を超えて著しく衰退または消失して貧植生状態となる現象」と定義されています。磯焼けが発生すると,海藻類が激減して単純な海底となり(写真7〜9),藻場を基盤とする生態系は崩壊します。その結果,生物多様性が低下し,沿岸漁業にも甚大な被害がでます。磯焼け域では,ウニ類が優占する場合もありますが,磯焼け域に生息するウニ類は大抵身入りが悪く出荷できない状態にあります。これは,餌が少ない状態ではウニ類は我々の可食部である生殖組織を発達させることができないためです。しかし,ウニ類は飢餓への耐性が高いため,貧植生の状態でも生き残ることができます。
藻場の衰退や消失の要因は多様ですが,多くの場合で海藻の生育量と海藻類を餌とするウニ類や魚類などの生息量とのバランスが崩れてしまうことで,磯焼けの状態が維持されることが多いと考えられています。磯焼け状態を回復させるには,海藻と海藻を餌とする動物とのバランスを整える必要があります。バランスが崩れた状態の海域に,コンクリート礁を設置しても藻場は一次的に回復するのみです。
磯焼けについては古くから知られている現象で,日本では18世紀後半に藻場の衰退に関する記録があるほかに,函館にゆかりのある遠藤吉三郎著の「海産植物学」(1911)という教科書内の「海藻減少論」で,磯焼けが論じられています。しかしながら,人間活動の活発化のためか,環境変動のためか,近年,磯焼けの報告例は急激に増加しています。沿岸域の生物多様性や豊かな沿岸漁業を維持するために,藻場の回復が必要です。