Topic outline
北極と南極の間を渡る海鳥の生態
気候変化が海洋生態系に与える影響を探るうえで、漁業情報がない海域では、海鳥の餌や分布の変化がそれに代わる便利なインジケーターとなります。地球温暖化による極域の海氷減少によって生態系がどう変わろうとしているのでしょうか?それを海鳥をとおして探ることができないかというのがこの研究です。ハシボソミズナギドリは9月にはベーリング海峡からチャクチ海に入ることがわかりました。渡りの直前にわざわざ反対方向の北に行くのだから、この場所はかれらにとって餌が多いとても重要な場所であるに違いありません。ArCSプロジェクトのおしょろ丸による調査により、北極海のオキアミは夏には小さいが秋には数ミリまで成長していること、この成長したオキアミが多い場所にハシボソミズナギドリも多いことがわかりました。やはり、秋に北極海に入るのは、オキアミを狙ってのことのようです。
海鳥から探る海洋生態系の長期変化
海鳥は、海洋生態系の大規模な変化のモニターとして役に立ちます。調査船による海洋調査に比べると、海鳥の調査は安価で容易です。広い範囲をうごきまわる高次捕食者であるため、広域の生態系の総合的で簡便な指標となります。ウトウは北太平洋の中高緯度に繁殖する海鳥で、孤島に巣穴を掘って営巣し、外洋で深さ数十メートルまで潜水して浮魚を捕食し、親は夜間にこれらをくちばしにくわえて帰ってきて雛にあたえます。われわれは北海道の日本海に浮かぶ天売島で、この雛のための餌と雛の成長を30年以上モニタリングしています。その結果、1980年代の寒冷期にはマイワシとイカナゴを、1990年代の温暖期になるとカタクチイワシを食べ、雛の成長が良いことがわかりました。ところが、2014以降はホッケ幼魚をおもにたべ、成長は悪く、ほとんど巣立ちしませんでした。こうした餌の変化は中期気候変化、レジームシフトと関係していることがわかってきました。さらに、2018年以降はふたたびイカナゴを食べるようになりました。寒冷期に戻りつつあるのかもしれません。海鳥は海洋生態系の大きなシフトにたいし前もってシグナルを与えてくれるかもしれません。
海鳥からみる海洋プラスチック汚染の拡大とその影響
現在毎年4億トンのプラスチックが生産され、1000万トン近い量が海洋に流出していると推定されています。そのプラスチックを海鳥が飲み込んでいます。1960年代に報告されて以来、海鳥の胃中のプラスチック出現率は年々増えており、北大西洋のフルマカモメでは1970年代から2000年代に、北極海でも2000年初から2008年にかけてその割合は増加し、今ではほとんどの個体がプラスチックを胃の中に持っています。こうしたプラスチックの飲みこみが海鳥に与える影響については十分にはわかっていません。これまでのプラスチック飲みこみの影響に関する研究をレビューすると、体重の0.25%以上のプラスチックを飲み込んでいた場合その影響がありそうなことが分かりました。海鳥の雛を使った野外でのプラスチック投与実験をおこなっています。
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