섹션 개요

    •  ヨモギのオスの大鋏脚はオス間闘争の勝利に貢献するのか,そして,闘争を終えたオスたちはイジケタル反応や勝利のポーズを見せるのか。採集してきた交尾前ガードペアを前に,いよいよ実験が始まった。まずは S 君のテーマであるイジケタル反応と勝利のポーズのしっぽをつかむため,4年生だけでなく,ヤドカリを研究していた博士の A 先輩にも協力を仰ぎ,みんなで代わる代わる闘争を観察した。闘いのアリーナとでもいうべき実験コンテナには,統計ソフト R(後述)※1 を用いてランダムに組み合わされたオスたち。私たちは左手にストップウォッチを,右手にペンを持ち,コンテナを覗き込んでは,単独オスがガードオスからメスを奪った時間,イジケタル反応や勝利のポーズが見られた(と観察者が思った)時間をひたすらメモし,15 分が経過した段階でメスをガードしていたオスを勝者として記録した(図3.4)。


      図3.4 オス間闘争実験の手順。(a) 海から採集し、個別に持ち帰ったガードペアは、実験前に交尾してペアを解消しないように、先にこちらで分けて飼育容器に入れる。(b) 実験では、ガードオスに割り振られたオスとそのペアのメスを先に闘争コンテナに入れ、ペアが再形成された後に単独オスを投入し、オス間闘争をさせる。単独オスがガードしていたメスは使わない。私の実験系は基本的にこの手順を踏襲している。

       実験が終われば,ヤドカリを飼育容器に戻して元のペアにし,コンテナの水を取り替えて次の実験のセッティングをする。リアルタイムの観察・記録があんなにたいへんだとは思わなかった。ヤドカリの行動は肉眼で追えるそれでも,一瞬も見落とせない緊張感のためか,数回観察するだけで目と肩と腰に疲労がたまる。目標の 100 闘争は遠く,背伸びをしたり,互いに声を掛け合ったりして乗り切った。

       私の実験はそれに比べるとはるかに簡便で,大量に並べたコンテナにヤドカリたちを放り込み,静置(放置)して,30 分後に勝敗を記録するだけである。大鋏脚の効果をより強く引き出すため,事前に体サイズの似たオスを組ませて,どちらのオスがガードオスか,単独オスかを記録しておけば,闘争終了まですることはない。途中の行動を無視するのは荒っぽくも思えるが,観察者の動きに動物が影響を受けない利点もある。上から覗かれていても活発に闘争し,ときには交尾も見せる図太いヨモギたちも,こちらのふとした動きで貝殻に引っ込むことがないとはいえない。彼らに本来の動きや強さを発揮してもらうための,あえての静置である。私は詳細な観察や行動データの蓄積を S 君の研究に任せ,ヤドカリたちの闘争を横目に別個体のサイズを測定し,30 分後にコンテナを回る,というサイクルを繰り返した。

       5月中旬までは,W 先生や先輩,同期たちと,行ける限り朝に海へ出かけ,サンプリングして大学へ戻り,昼食を食べて午後は実験という毎日を過ごした。実験中にかじる板チョコが猛烈においしい。実験終了後も,各ペアのメスが脱皮,産卵するまで(ヨモギのメスは交尾直前に必ず脱皮する:Suzuki et al. 2012),1日2回のチェックを続けた。ゴールデンウィークも連日実験室のカギを借りる私たちを心配してか,当時の守衛さんに「帰省しないの?」と聞かれたこともある。いいえ,実験しかないです,むしろ卒業かかっています!


      ※1 書籍にて紹介