セクションアウトライン

    • 表層の定義  (概要説明)


      記述海洋学の教科書(Descriptive physical oceanography, Talleyら, Elsevier)によると、

      表層の定義:表層混合層 + 混合層の水が潜り込んだ(サブダクトした)層

      です。風の力で水が動かされる層、だと思ってください。


      おおまかには、

      亜寒帯:表層混合層0~200m + サブダクション層 0m = 表層200m 

      亜熱帯:表層混合層0~100m + サブダクション層 600m = 表層700m

       北緯40度付近には、西から東へ吹く偏西風が吹いています。偏西風によって、亜寒帯の表面付近の水がエクマン輸送により亜熱帯域に運ばれます。亜熱帯域は風の力で表面付近の水が集まる収束域になっていて、分厚い表層を成すのです。



       下の図は、北太平洋の南北方向の断面を表しています。右が亜寒帯です。この図中で、緑色の線が、表層で一番深いところの水深です。表面付近の水が運び去られる亜寒帯は発散域で、表層が浅くなっています。表層混合層の厚さを、薄紫色で描き加えました。亜寒帯は混合層が分厚く、最大200mくらいです。亜寒帯では表層と混合層が一致しています。亜熱帯の混合層は浅くなっていて50mくらいです。亜熱帯の混合層の下には、偏西風や貿易風の力で集められた水が深い表層を成しているのです。



    • 混合層と成層

       混合層とは、水が鉛直的に混ざっている層のことです。海の表面の水は、風の力で強制的に混ぜられます。その混ざっている層を表層混合層といいます。海面の水が冷やされて水が沈み込むことによっても、混合層が発達します。混合層内では、密度が一様です。水温など、密度以外の多くのパラメタも混合層内で一様になります。



       混合の反対言葉は成層です。海水の密度の低い、高いを色で分けました。低密度が白、高密度ほど黒です。海の表面付近が混合していて、低密度の水がある深さまで鉛直的に均質になっていました。その混合層の直下では、深くなるにつれ、密度が高くなっていました。鉛直方向に層を成していたのです。密度の鉛直分布を図にすると、このようになります。混合層では密度が一様、成層では、深度と共に密度が増しています。


      混合層の水が太陽放射で温められると、低密度化します。急に低密度化すると、混合層直下には著しい密度躍層が形成されます。成層が強化されたのです。混合層とその直下で物質のやり取りが著しく制限されている状態です。夏場によくみられることで、深い方から混合層への栄養塩の供給が著しく制限されることになります。



       混合が発達する様子を図に示しました。下左の図は、風の力により水深20mまで混合している状態です。混合層の水温が19℃です。このあと、冷たい北風が吹いて、海面が冷やされました。風の力も受けて、混合層が50mまで発達するとともに、混合層内の水温が15℃まで低下しました。これが右の図の状態です。今度は、(下図)右の状態から、風が弱まるとともに、太陽による加熱が起こったとします。混合層が20mまで浅くなり、混合層内で温度が上がり、19℃になりました。このように、混合層は気象条件で変化するのですが、その様子は季節で大きく変化します。これが、海洋の基礎生産性を特徴づける一番大きな理由といえるでしょう。


    • FSC伊佐田先生が、成層化と混合を視覚的にわかりやすく解説した実験動画です。



    • 混合層の季節変化


       季節的に混合層の深さが浅くなる様子を図にしました。北海道の緯度くらいの海をイメージしています。左から、冬は海面冷却と風の力で混合層が発達していて、最大で200mくらいまで混ざっています。春になると、海面が温められるとともに、混合層の深さが浅くなってきます。夏になると、さらに混合層が浅くなります。次に、混合層内に降り注ぐ光の量の変化と、その変化に伴って植物プランクトンの大増殖が起こることを次のコースで説明します。