しらせが昭和基地に到着した2021年の12月中旬頃は、南半球の南極では夏の時期でした。一般に南極というと雪や氷に覆われた白い世界をイメージする方が多いと思いますが、夏の昭和基地は全く違います。気温がプラスになることも珍しくなく、土や岩盤が露出した茶色の世界です。雪も残ってはいますが、雪解け水が小川を作り、雪国の春のような雰囲気です。

夏の昭和基地
この時期には63次観測隊の夏隊と越冬隊、62次観測隊の越冬隊、さらにはしらせの乗組員が作業の支援で昭和基地に滞在しており、基地が1年で最もにぎやかになります。越冬隊が1年間活動するのに必要な物資や燃料をしらせから輸送する作業や、夏にしかできない土木や建築の作業などを集中的に行うため、昭和基地は重機やトラックが走り回り、さながら工事現場のようです。多くの作業は専門の隊員に手空きの隊員が加わって共同で行われます。私は観測を主な業務とする隊員ですが、建屋の解体や岩盤の除去作業など、普段とは違う様々な作業の経験ができました。ただ、この時期は白夜で夜中も明るく、何時まででも作業ができてしまうため、働きすぎには注意が必要です。土日も関係なく働いていたため、体にはかなり疲労がたまりました。
一方、昭和基地を離れ、野外に出て観測を行う隊員もいます。特に夏隊はこの時期の活動が南極での全てですので、基地よりも野外に滞在する期間の方が長い隊員も珍しくありません。観測の内容によっては1か月以上の長期にわたってキャンプ生活を送ることもあります。
夏期間の終盤にはしらせでの海洋観測も始まります。しらせは2022年1月23日に昭和基地沖を離れました。その後は昭和基地のあるリュツォホルム湾内を始めとした南極大陸沿岸や南大洋での海洋観測を行いながら日本を目指します。

海洋観測
昭和基地の夏期間は2月上旬で終わりです。2月1日には「越冬交代式」を行って62次越冬隊から63次越冬隊へ基地の管理をバトンタッチしました。この日を持って62次越冬隊や63次夏隊の多くが昭和基地を離れてしらせに戻ります。その後も残留して作業や観測を続ける隊員もいますが、2月8日のしらせへのヘリコプター最終便をもって残留組は全て基地を離れ、昭和基地に残ったのは63次越冬隊の32名だけになりました。

越冬交代式
(掲載協力:国立極地研究所)