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    • 北海道大学水産科学研究院の岩本勉之客員准教授からの寄稿を連載します。

    • 私(岩本)は現在、第63次南極地域観測隊の越冬隊員として、南極の昭和基地で越冬生活を送っています。日本を出発したのは2021年11月10日、昭和基地に到着したのは39日後の2021年12月19日です。日本を離れて約半年、昭和基地での生活は5か月になります。


      南極地域観測隊は夏隊と越冬隊で構成されています。夏隊は11月に日本を出国して南極の夏期間(南半球なので日本とは季節が逆)に活動し、3月下旬に日本に帰国します。一方、越冬隊は夏隊と一緒に南極に向かいますが、夏が終わった後も南極にとどまり、翌年の夏隊と一緒に帰国します。夏隊が日本を離れている期間は4か月程度ですが、越冬隊は1年4か月に及びます。

      南極地域観測隊は昭和基地を拠点として活動しますが、実はこの基地は南極大陸上にはなく、約4km幅の海峡を挟んだ東オングル島にあります。南緯69度00分19秒、東経39度34分52秒に位置し、日本からおよそ14000km離れています。日本との時差は6時間あります。



      (掲載協力:国立極地研究所)

    •  第63次南極地域観測隊は、2021年10月28日から2週間の新型コロナウイルス感染症対策の隔離を経て、11月10日に横須賀港を南極観測船「しらせ」で出発しました。しらせは海上自衛隊が運用する砕氷船で、1957年の第1次観測隊で使用された「そうや」から数えて4代目になります。通常、観測隊は11月下旬から12月上旬頃に成田空港から出国し、オーストラリアのフリーマントルでしらせに乗り込むのですが、新型コロナウイルスの影響でオーストラリアへの入国ができないため、日本から乗船して昭和基地へ向かうことになりました。観測隊が日本から乗船して南極へ向かうのは第62次南極地域観測隊に続き2年連続です。


      出港から昭和基地に到着するまでの主な出来事は以下のとおりです。
      2021.11.10 横須賀港出港
      2021.11.17 赤道通過
      2021.11.19 ロンボク海峡通過
      2021.11.24 フリーマントル入港
      2021.11.26 フリーマントル出港
      2021.12.01 南緯55度通過
      2021.12.02 氷山初視認
      2021.12.10 定着氷縁着、砕氷航行開始
      2021.12.16 昭和基地第1便
      2021.12.19 昭和基地沖接岸


      昭和基地まではおよそ40日の航程でした。出発時の日本は涼しい秋でしたが、南下するにつれて気温は徐々に上昇します。熱帯を通過して南半球のオーストラリアは夏直前といった状況でした。
      フリーマントル出港後は『吠える40度、狂う50度、絶叫する60度』と呼ばれる暴風圏を進みます。現在のしらせは比較的揺れない船と言われていますが、それでも船に慣れていない隊員はベッドから出られない日々だったようです。私はそれほど船に強いほうではないのですが、幸いなことに全く船酔いしませんでした。
      その後、往路では珍しいオーロラとの遭遇を経て12月1日に南緯55度を通過。翌日には氷山と初めて遭遇し、南極が近づいていることを実感しました。ここで進路を西に変え、南極大陸縁辺部に沿って昭和基地に向かいます。暴風圏はまだ続いており、西風に逆らって進むため、艦橋まで波をかぶることもしばしばでしたが、やがて流氷帯に突入するころには揺れも収まりました。
      流氷帯を通って昭和基地のあるリュツォ・ホルム湾に入ると、定着氷域に突入します。ここからは「ラミング」と呼ばれる砕氷航行が始まります。行く手を阻む厚い海氷に何度も体当たりを繰り返しながらゆっくりとしらせは進み、12月19日、日本から約14000km離れた夏の涼しい昭和基地に到着しました。
      (掲載協力:国立極地研究所)


    • 南極までの航路

    • 暴風圏を進むしらせ

    • 南緯60度10.8分、東経110度15.1分で初視認した氷山


    •  しらせが昭和基地に到着した2021年の12月中旬頃は、南半球の南極では夏の時期でした。一般に南極というと雪や氷に覆われた白い世界をイメージする方が多いと思いますが、夏の昭和基地は全く違います。気温がプラスになることも珍しくなく、土や岩盤が露出した茶色の世界です。雪も残ってはいますが、雪解け水が小川を作り、雪国の春のような雰囲気です。

      夏の昭和基地

       この時期には63次観測隊の夏隊と越冬隊、62次観測隊の越冬隊、さらにはしらせの乗組員が作業の支援で昭和基地に滞在しており、基地が1年で最もにぎやかになります。越冬隊が1年間活動するのに必要な物資や燃料をしらせから輸送する作業や、夏にしかできない土木や建築の作業などを集中的に行うため、昭和基地は重機やトラックが走り回り、さながら工事現場のようです。多くの作業は専門の隊員に手空きの隊員が加わって共同で行われます。私は観測を主な業務とする隊員ですが、建屋の解体や岩盤の除去作業など、普段とは違う様々な作業の経験ができました。ただ、この時期は白夜で夜中も明るく、何時まででも作業ができてしまうため、働きすぎには注意が必要です。土日も関係なく働いていたため、体にはかなり疲労がたまりました。


       一方、昭和基地を離れ、野外に出て観測を行う隊員もいます。特に夏隊はこの時期の活動が南極での全てですので、基地よりも野外に滞在する期間の方が長い隊員も珍しくありません。観測の内容によっては1か月以上の長期にわたってキャンプ生活を送ることもあります。
       夏期間の終盤にはしらせでの海洋観測も始まります。しらせは2022年1月23日に昭和基地沖を離れました。その後は昭和基地のあるリュツォホルム湾内を始めとした南極大陸沿岸や南大洋での海洋観測を行いながら日本を目指します。


      海洋観測

       昭和基地の夏期間は2月上旬で終わりです。2月1日には「越冬交代式」を行って62次越冬隊から63次越冬隊へ基地の管理をバトンタッチしました。この日を持って62次越冬隊や63次夏隊の多くが昭和基地を離れてしらせに戻ります。その後も残留して作業や観測を続ける隊員もいますが、2月8日のしらせへのヘリコプター最終便をもって残留組は全て基地を離れ、昭和基地に残ったのは63次越冬隊の32名だけになりました。


      越冬交代式

      (掲載協力:国立極地研究所)

    • 研究手法 北極の海