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    •  2021  年秋季に北海道太平洋沿岸域で発生した「大規模有害赤潮」は、サケ定置網内でのサケの斃死や、エゾバフンウニの大量死を引き起こしました。その被害量はサケ  27,900 尾、ウニ 2,800トンにのぼり、全道的な漁業被害額は 2022 年 2 月 28 日現在で 81.9 億円になると報告されています。 

       この大規模有害赤潮の原因藻類とされているのが、渦鞭毛藻類のカレニア・セリフォルミスです。これまで日本でのカレニア属による赤潮は、西日本の瀬戸内海や九州沿岸域を中心とした、カレニア・ミキモトイによる被害が報告されています。このミキモトイの北海道における出現は、北海道南部の函館湾で報告されており、日本海を北上する対馬暖流水により輸送されたと考えられています。一方、2021年の大規模有害赤潮原因藻であるセリフォルミスは、2004年にニュージーランド南島から記載された種です。これまでにメキシコ湾、ニュージーランド、オーストラリア、チュニジア、クウェートで赤潮形成が報告されており、おそらくミキモトイとセリフォルミスは汎世界的な分布を示すとされています。 

       2021年の大規模有害赤潮に関しては、セリフォルミスの遺伝子解析や細胞サイズ、また赤潮形成海域の海洋学的な特性と、粒子追跡モデルによる起源海域の推定が行われています。大規模有害赤潮のセリフォルミスについては、遺伝的に同一とされた株による赤潮がロシア・カムチャッカ半島東岸において、2020  年秋季に起こったことが報告されています。道東沿岸域ではこれまでにも、1972、  1983、 1985、  1986 年に渦鞭毛藻類による赤潮の発生が報告されています。これら道東沿岸域における赤潮発生に関するメカニズムは「降雨型赤潮」とされています。しかし 2021年の大規模有害赤潮の発生は、ある特定の一海域に留まらず、被害範囲は根室沖から襟裳岬までの地理的な広範囲に及ぶため、その成因や発生メカニズムを再考する必要があると思われます。 

       そこで本研究では、2021 年 10 月 6–12日にかけて襟裳岬西岸から厚岸沖の広範囲で表面採集した試料中に出現したセリフォルミスの細胞数密度と、植物プランクトン群集の水平分布を明らかにし、既報の道東沿岸域における赤潮の報告についてまとめ、大規模有害赤潮の起こる条件について考察しました。