水中、土壌中、空気中などあらゆる環境中には、そこに生息している生物由来のDNAが存在しています。そのDNAを総称して、環境DNA (environmental DNA, eDNA) と呼んでいます。あらゆる生物は遺伝子としてDNAを持っています。バクテリアのような微生物は生体そのものが環境中に存在するので当然そのDNAも環境中に含まれています。環境DNA分析は、もともとはそのような微生物を分析する手段として発展してきた技術です。1990年代に、従来行われてきた培養による分析にかわって、直接環境中の微生物のDNAを調べることができる分子生物学的な技術が発展しました。この手法により、さまざまな環境中に多様な微生物が存在しており、それぞれの生態系の中で重要な役割を果たしていることが明らかとなりました。
一方水中には、マクロ生物から糞などの排泄物や分泌物の形で体外に放出されたDNAも存在しています。微生物とは異なり、マクロ生物の環境DNAは、生体から分離したDNAです。そのような生体外の微量なDNAでも、現在の技術をもってすれば検出可能であることが10年ほど前に発見されました。DNAは種に特異的なので、環境DNAを分析することで、生態系内の生物群集について様々な情報を得ることができます。例えば、ある海域にどのような生物が生息しているのかを推定することができます。また、もし環境DNA濃度がバイオマスと相関があるなら、汲んだ水に含まれるDNAの濃度を調べることで、個体数やバイオマスまで分かるかもしれません。この手法は生物を捕獲したり殺傷したりすることがないので、特に絶滅危惧種や固有種など生息数の少ない生物の分布調査に有効です。また海洋保護区など生物の捕獲調査ができない場所でも、生息している生物種の目星を付けることができます。